寒い日が続きますが、暦のうえでの立春が近づいています。そこで今回は春告げ鳥ともいわれるウグイスについてのトピックです。最近の研究によれば、ウグイスは親から子に鳴き方を教えて、鳴き声によるコミュニケーションを習得させているのだとか。子どものうちに言葉を覚えさせねばならないのは、鳥も人間の子も一緒のようです。
新年を迎えまだ寒さが続きますが、1月後半から2月にかけて、野山では「春告げ鳥」と呼ばれるウグイスが綺麗な声で鳴き始め、新しい春がやって来るのだと季節を感じることとなります。
そのホーホケキョという声を昔の人々は「法 法華経」と聞き取り、春の訪れと共に心を清めてくれる声としてありがたく思っていたみたいです。
実はこのウグイスの鳴き声、春の始まりの頃はちゃんと鳴くことが出来ず「ケッケキョッケキョキョ…」と長く伸ばした音が出ません。この鳴き方は「ぐぜり鳴き」と呼び、漢字では「口舌鳴き」と書きます。ノドを使わず口先だけで鳴いているという意味です・
それが練習と共に長くホーと音を伸ばして鳴くことが出来るようになり、桜の花が散る頃になってホーホケキョが完成するのです。
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同じように春には様々な鳥が一斉に鳴き始めますが、それらの鳥も同じようにぐぜり鳴きから本格的な鳴き方に完成していきます。これらの鳥の鳴き方は大人の鳥が産まれたばかりの小鳥にレクチャーをして覚えるということが最近の研究で判っています。
実験としてAという小鳥を別のBという種類の成鳥の中に入れて育てると、いつしかAは本来の鳴き声と違うBのメロディで鳴き始めてしまうそうです。インコなどが人間の喋り声、時には一緒に飼っている犬の鳴き声を覚えてしまうのと同じ状態です。
さらに生まれたばかりの小鳥を真似する他の鳥がいない空間で育てると、デタラメなリズム感のない鳴き方になってしまうそうです。
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そのようにお手本となる大人の鳴き声を覚えて小鳥は鳴き方を完成させるのですが、さらに実験として様々な鳥の鳴き声を同時に聴かせて育てると不思議な現象が起こります。
小鳥はその中から自分と同じ種類の鳴き声をチョイスして本来の鳴き方でさえずり始めるのです。そのメカニズムはまだ解明されていないのですが、どうやらDNAの中に刻み込まれた歌声に反応しているのはないかと言われています。
ただしこの小鳥が聴いて覚える期間は、卵から孵った後の約50日間だけだと言われており、それを過ぎた後に勉強させてもデタラメな鳴き方でしかさえずることが出来なくなってしまいます。
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さらに頭が良いと言われるカラスの場合、鳴き声で危険を知らせる、エサがあることを知らせるなど複雑なコミュニケーションを取っていることが判明していますが、この鳴き声は極狭いコミニュティーの中、仲間内だけの共通言語で、場所が変わると意味する鳴き声が違ってくるそうです。
そのこともあってカラスを捕まえてまったく別の場所で離すと、コミュニケーションが取れなくなってしまいノイローゼ状態となり、食糧などを食べられなくなったりすることもあるそうです。
これらも生まれた時に覚えた鳴き声が基準になっているので、カラスは引っ越しが出来ないのです。
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人間もそれに近い部分があり、子供の頃に聞いていた言語が脳に刻まれ耳が完成すると言われており、大人になっていきなり外国語を覚えようとしても脳が音を理解出来ずに聞き取ることが出来なくなると言われています。いわゆる英語のLとRが聞き取れないという問題が発生するのです。
ですから近年の小学校から英語を教えるという教育は、この先のグローバル化の中で理にかなっているということなのです。
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記事投稿者
杉村 喜光(知泉)
雑学ライターとして、三省堂『異名・ニックネーム辞典』、ポプラ社『モノのなまえ事典』など著作多数。それ以外に様々な分野で活動。静岡のラジオで10年雑学を語りテレビ出演もあるが、ドラマ『ショムニ』主題歌の作詞なども手がける。現在は『源氏物語』の完訳漫画を手がけている。
2022年6月15日に最新巻『まだまだあった!! アレにもコレにも! モノのなまえ事典/ポプラ社』が発刊。