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補聴器はどのようにつくられる?構想から完成まで

  • 公開日:2017.10.01
補聴器 技術
研究者

新しい製品を開発し市場に投入するまでのプロセスにおいては、膨大な時間と人的リソースを必要とすることは想像に難くないでしょう。それは補聴器にしても同様です。それでは新たな補聴器が開発されるとき、そのきっかけはどんなことなのでしょうか?新製品の着想からアイデアを形にする新技術の開発、そして市場への投入までを5つのステージに分けてご紹介します。

補聴器の完成には10年以上の時間と、500人もの人々が関わっている

補聴器とは、周囲の環境の中の音を増幅させて耳に届ける機器です。製品としての補聴器が初めて登場したとき、それはラッパの形をしていました、その後、箱型をした補聴器が生まれ、時代の移り変わりとともに大きく進化してきました。

現在、補聴器は耳にフィットしてほとんど見えないほど小さなサイズになり、その中に先進的な技術が搭載されています。会話と周囲の雑音を分けて耳に届けることが可能になり、テレビや携帯電話、スマートフォンといった電子機器の音声を補聴器に直接送るなどの互換性も備えています。

こうした補聴器の開発には、どのくらいの時間がかかるのでしょう?世界の著名な補聴器メーカーでは、コンセプト作りから製品の完成まで、一連の過程には10年以上を要し、何百人もの開発エンジニア、聴覚ケアのプロフェッショナルが関わります。また補聴器メーカーによっては、さらに補聴器販売の現場に関わる人々の声を反映したり、また実際の補聴器ユーザーである一般の消費者が試用実験などに関わる場合もあります。それらすべての人々が、補聴器ユーザーの生活の質(QOL)の改善につながる補聴器を生み出すことに注力しているのです。

研究開発:聞こえに悩む人の課題を見つけるところからスタート

新たな高機能補聴器の開発、特に新たなプラットフォームやデザイン設計を導入する場合には、研究開発だけで3~4年の歳月を要し、200~300もの人々が関わることになります。

すべては「どのような補聴器が必要なのか」、そのアイデアを得るところから始まります。アイデアの多くは実際に聞こえに悩みを持つ一般の人々からもたらされます。病院や、補聴器販売店などに伝えられた聴覚に関するさまざまな悩みや問題も、課題として補聴器メーカーに伝えられます。

また、アイデアは病院や学校で働く聴覚ケアの専門家や販売の現場から直接もたらされたり、新技術の登場がきっかけとなることもあります。補聴器メーカーは難聴者や補聴器ユーザーが直面している課題を知ったとき、すぐにその解決に向けて製品開発に着手するのです。

補聴器メーカーが新製品のコンセプトを実現する技術を持っていなかった場合は、開発工程は全体のプロセスの最も時間を要する部分となります。

たとえば、現在の補聴器ユーザーが最も不満に感じていることの1つに、「複数人が話す声を周囲の騒音から区別する機能」があります。2013年に米国オハイオ州立大学の研究者たちは、音を言葉かノイズのどちらかの単位に分割し、ノイズを除去する方法を発見しました。その新技術に取り組んだ言語聴覚学教授エリック・ヒーリー博士は「今後10年以内にはこの技術が市場に出ることを期待している」と話しています。

試験:補聴器は医療機器だから、何度も臨床試験を重ねる

補聴器は医療機器に分類されており、厳格なガイドラインに適合しなくてはなりません。

新たな技術を伴う試作品は、有効性を測定するために臨床試験が行われます。米国の場合、メーカーは新しい補聴器を市場に出す認可を確保すべく、米国食品医薬局(Food and Drug Administration、以下FDA)に臨床データを提出します。

FDAに提出された聴覚ケアに関連する印象的な事例

  • カリフォルニア州メンローパークにあるイヤー・レンズ 社が製造した小型補聴器(CHD)は、軽度または重度の感音難聴を持つ成人に向けた製品です。装用したユーザーの鼓膜をスピーカーとして使用し、より広い周波数帯における音の増幅を可能にします。
  • スコットランド・スターリング大学の研究チームでは、現在、読唇を行った視覚情報をリアルタイム処理できる小型カメラを搭載した補聴器の開発に取り組んでいます。補聴器の音声情報とカメラの視覚による手がかりを自由に切り替えることで、ユーザーの聞こえを助けるというものです。この新たなソフトウェアにより、にぎやかなレストランや空港、駅など騒音が多い場でも、難聴者がよりコミュニケーションしやすくなると期待されています。
  • 言語聴覚学の教授で音響心理学の専門家でもある米国・ボストン大学サージェント・カレッジのジェラルド・キッド教授が2011年から取り組んでいる構想も、聴覚と視覚を組み合わせるものです。液晶モニターと連動した試作品は、2014年後半から試験段階に入っています。キッド教授は補聴器メーカーがこの構想に関心を示し、身に着けて持ち歩ける機器へと発展することを期待しています。

設計と製造:特殊な技術や装置が使えるよう、自社生産設備を整えているメーカーも

技術試験が実施されFDAの認可を得ると、エンジニアたちは設計と製造に着手します。現在の消費者が好むのは、目立たず、しかし確実に動作して、活動的なライフスタイルの妨げとならない補聴器。そのように魅力的で装用可能な製品を作る過程は、困難を極めます。

補聴器に使われる技術の中には、外注や委託することができない特殊な機器・装置を使うものも少なくないため、一部の補聴器メーカーは自社生産設備を用意しています。1週間に数千台の製造が可能な大規模な生産施設もあります。

教育:聴覚ケアの専門家は常に最新の情報を学び続ける

補聴器の技術は、過去50年間で劇的に変化してきました。補聴器はユーザーに合わせた調整が必要ですが、それほど遠くない昔には、補聴器の調整はねじ回しを使って手動で行われていました。

現在の主流であるデジタル補聴器の調整は、コンピュータで正確にプログラミングされ、ユーザー一人ひとりの聴力やライフスタイルに合わせてカスタマイズされます。

このような進化は消費者にはうれしいことですが、聴覚ケア、特に補聴器に関わる専門家や補聴器調整を行う専門スタッフにとっては、最新の補聴器機器について学び続けなくてはならないということでもあります。それができてこそ、一人ひとり異なるニーズにフィットする補聴器を届け、常に高い満足度につなげることができるのです。

流通: 補聴器をお客様にお渡しする際には、あらかじめ補聴器の役割や機能について理解いただく必要があります。

この段階で、ついに補聴器が市場に提供されるまでの態勢が整ったことになります。ほとんどの主要な補聴器メーカーでは、聞こえに問題を感じた場合、まず医療機関を受診いただくことを推奨しています。そしてお客様とカウンセリングを通じて対話を行います。

その理由は主に3つあります。

1つ目は、お客様自身が適切な助言を受けて、難聴や現在の聴力を把握できるようにするため。2つ目は補聴器を購入する際に、カウンセリングを通して補聴器の役割をしっかり理解いただくためです。そして3つめは、補聴器の快適さをより高いものにするため。快適さは、専門スタッフがお客様のニーズや聞こえの状態に合った補聴器を選択し、適切な調整をすることによることで高まることが、研究によって明らかになっているからです。

このような対話は、消費者保護の立場からも、補聴器の役割や機能についてあらかじめ正しく理解いただいたうえで購入いただくことが欠かせません。

市場において補聴器の名称を関した製品は、全てが徹底的な研究開発の過程を経て、製造およびさまざまな品質試験を通り、正式な専門機関によって許可されたものであるということです。

日本国内での流通においては、補聴器メーカーが法令に基づいて厚生労働省に申請を行います。補聴器は薬機法が定める管理医療機器として指定されており、効果や安全性などに関する一定の基準をクリアする必要があり、個別の製品ごとに正式な認定を受けなければ製造販売できません。つまり、厚生労働省が正式に医療機器として認定した補聴器だけが、市場へ送り出されるのです。

いまこの瞬間も、補聴器メーカー各社では次の、さらにはその次の補聴器を生み出すための、さまざまな研究や技術開発が行われています。新しい補聴器の開発プロセスには、時に10年もの年月がかかりますが、難聴者の方が聞こえの向上を実感できる製品を生み出すことができるのであれば、それだけの期間をかける甲斐はあると言えるでしょう。


出典:米国「HealthyHearing」2016年2月24日の記事「Timeline of a hearing aid: from concept to completion」(Debbie Clason寄稿)

※本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトは healthyhearing.comに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。

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    ヘルシーヒアリング編集局

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