AI(人工知能)は私たちの生活を便利で豊かにする身近なものとなりつつあります。そのAIが活用されている補聴器があることをご存じでしょうか。AIが現在のかたちとなるまでの長い歴史を振り返り、DNN(ディープニューラルネットワーク)が搭載された補聴器の特徴や従来の補聴器との違いについてご紹介します。
補聴器にも活用されているAIの歴史とは
今やAI(人工知能)という言葉は多くの人に知られており、オンラインのコミュニケーションツールや生活家電などには当たり前のようにAIが搭載されるようになってきています。AIは最近のものという認識を持っている方も少なくないかもしれませんが、歴史の始まりは1950年のチューリングテストまで遡ります。
チューリングテストとは、「知能とは何か」という問いに対し、チューリングが提唱した、「ある機械が人間のようにふるまっているか」を判定するためのテストです。その後、1956年にジョン・マッカーシーは、人工知能の定義を「人間の知能に近いコンピュータープログラム」と表現しています。
これより現在まで、人工知能ブームと冬の時代が第一次から第三次まで交互に訪れます。
人工知能(AI)ブームの移り変わり
第一次人工知能ブームの始まりは1950年代の後半から1960年代にかけてです。迷路や簡単なゲームに答えられるものはありましたが、現実社会に起きている問題のような複雑な課題に答えることはできませんでした。
第二次人工知能ブームが訪れたのは、1980年代です。入力された知識をもとに問題解決を図るというエキスパートシステムの開発が進んだ時期です。知識は人がコンピューターへインプットする必要がありました。2000年代には第三次人工知能ブームが始まり、現在に至ります。
AI自身が大量のデータ(ビッグデータ)から知識を習得する機械学習や、インターネット上の情報を学習して答えを導くディープラーニングが可能になり、人の日常生活を豊かにするパートナーとして、AIは私たちの生活に欠かせない存在となりつつあります。
DNN搭載の先進補聴器
DNNとはDeep Neural Network(ディープニューラルネットワーク:深層学習)を指しています。DNN及びDNNが搭載された補聴器の特徴について説明します。
DNNとは
DNNはディープラーニングの手法のひとつです。機械学習によって答えを出すための処理の層を増やして、より深く多層的な処理によって複雑な処理も可能にします。DNNは自動車の自動運転技術や音声認識などに広く活用され、DNNが搭載された補聴器も製品化されています。
DNN搭載の補聴器と従来の補聴器との違い
DNNを搭載した補聴器と従来の補聴器との主な違いは、補聴器に入力された音の処理方法と聞こえの精度です。
人が周囲のざわざわしている騒音のある場所でも、名前を呼ばれる声を聞き取ることができ、必要としない音と区別できるのは、脳が周囲の音を常に捉えて、必要な音を選択し、そうでない音を背景へと処理しているからです。
従来の補聴器はあらかじめ定義されているルールや数学的な理論モデルに基づいて、周囲の騒音を低減し、音声を強調するという処理方法で、環境によってはその処理がうまくいかずに音声が聞こえにくい場合もあります。
DNNを搭載した補聴器は、世界から集められたさまざまなシチュエーションでの音のデータをもとに最適化した音声の処理を学習済みのため、従来の補聴器に比べて、周囲の環境の変化に応じて理想的な音声を届けることができます。
AIの進化と補聴器の未来
DNN搭載の補聴器は環境に合わせてその時々で適した聞こえを届けることが可能となります。今後、さらなるAIの進化によって人間の脳を超えるようなシンギュラリティが起これば、補聴器がさらに大幅に進化する未来が拓けるかもしれません。
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記事投稿者
丹野 愛
フリーライター。医療・介護系のサイトコンテンツやコラムなどを執筆。作業療法士。福祉住環境コーディネーター2級。認知症ライフパートナー2級。