今回は犬の日にちなみ、補助犬の一角を担う聴導犬について紹介します。動物保護団体など、国内外の組織の一部では、保護犬の里親を探すだけでなく、聴覚障害を抱える方々に聴導犬を引き合わせる活動も行っています。ちなみに、日本では、「ワンワンワン」の鳴き声から11月1日を犬の日に、アメリカは3月23日を全米子犬デー(National Puppy Day)としています。これらの記念日の前後には、SNSがかわいらしい犬たちの画像でいっぱいになるかもしれません。(補助犬=体の不自由な人の自立や社会参加を助けるために特別に訓練された犬のこと)
パートナーの「耳」となる聴導犬
聴導犬の育成は1960年代から続いています。「国際アシスタンス・ドッグ協会(Assistance Dogs International)」や、「米国聴導犬協会(Dogs for the Deaf)」といった組織が保護施設から犬たちを救い出し、聴導犬となるための訓練を施してパートナーとの引き合わせを行ってきました。犬は、人間のパートナーの「耳」となることで、難聴者に安全と自立心を提供し、生活の質を向上させることができます。
聴導犬は、目覚まし時計、呼び鈴、キッチンタイマー、火災警報、強盗警報、電話といった家庭内やその他の音を人間に知らせるように訓練されています。家庭では、犬たちが腕や足を軽く押すことでパートナーに音を知らせ、その後、音源まで誘導します。公共の場所はさまざまな音源があるため、犬たちがすべての音に反応することは無理ですが、パートナーは聴導犬の反応に従うことで、適切な行動がとれるようになります。
聴導犬に問われるのは犬種よりもその犬の気質
聴導犬は特定の犬種である必要はありません。アメリカにある「自立のための伴侶犬(Canine Companions for Independence)」などの組織では、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーなどといった補助犬をめざして育てられた犬種を、聴導犬とすることに力を入れていますが、何よりも重要となるのは犬たちの気質です。
聴導犬を訓練する組織の多くは、特にテリア、プードル、チワワ、シーズー、コッカー・スパニエル、ラサ・アプソといった小型犬や中型犬の雑種を好みます。これは、このくらいのサイズの犬を求める声が多くあるためです。
何をもって優れた聴導犬と定義するのでしょう? 「米国聴導犬協会(Dogs for the Deaf)」のニコール・トールマン氏は、何よりもまず、フレンドリーで親しみやすい犬でなくてはならないと話します。犬小屋の背後に隠れるような性格の犬は、理想的な介助犬になるのは難しいということです。
さらに、フードやおやつなどのご褒美のために働こうとすること、公共の場でも落ち着いていられることがあげられます。加えて健康でなければいけません。聴導犬は常時、仕事のためにスタンバイしている必要があるため、体力水準はとても重要になります。
保護施設の犬たちが聴導犬になるまで
保護施設などから聴導犬の候補が選ばれると、獣医によって健康状態が確かめられます。その後、犬たちの訓練がスタートしますが、はじめは、他の犬と同様に、基本的な社会への対応としつけが教えられます。そしてボランティアの元で生後約6ヶ月になるまで育てられた後、正式な音声応答訓練に移る準備に入り、標準的なペットとは歩む道が分かれていくというわけです。
ボランティアの子犬飼育者とのかかわりを経て社会化段階が完了した犬たちは、1日に1~2時間の訓練を行って、家庭内の音に反応することでご褒美をもらえることを覚えていきます。この段階はだいたい6ヶ月続きますが、訓練の期間はそれぞれの犬によって異なります。
訓練を経て聴導犬になれる犬の割合は約25%
ただし、すべての犬が訓練を乗り越えられるわけではありません。「米国聴導犬協会の場合、聴導犬として認められることになるのは4匹中1匹の割合」とトールマン氏は言います。単純に働く気のない犬もいるのだそうです。聴導犬として残った犬たちは、温かい家庭に受け入れられるよう、同協会によって縁組みが行われます。
聴導犬のパートナーになるためには
資格を得た犬たちはそれぞれ、聴覚補助を必要とする人間のパートナーとなります。けれど、すべての難聴者が聴導犬を得ることができるというわけではありません。トルーマン氏いわく、「聴導犬を得るのは重度難聴者であるか、聴覚を活用することが極めて困難な人」。
アメリカの場合は、パートナー候補者の聴力を測定し、その後、聴覚の専門家によって譲渡が検討されます。聴導犬を提供する組織の多くが非営利であるため、聴導犬を得るための費用は後日払い戻しされる預り金と少額の申込金のみ。通常の場合は、人間のパートナーも短期間の訓練を受ける必要があります。
なお日本での聴導犬や補助犬の具体的な情報は、厚生労働省が提供するウェブサイト「ほじょ犬」で確認できます。
補助犬、そして聴導犬の活躍の場が広がり始めています
アメリカにおける補助犬の総数は、過去10年間で急速に増加しました。このうち特に増えているのが聴導犬です。その一方で、障害のことが理解されないために、公共の場で犬の同伴を反対されるケースもあり、そうした人たちとの間でのトラブルも懸念されています。
「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities act)」では、ビジネス、政府および多くの非営利団体に対し、一般の人が訪れる場所はどこであれ、補助犬の同伴を認めるように定めています。また法律ではありませんが、通常では聴導犬にベストや蛍光オレンジの紐、首輪を装着させることで、ペットと区別できるようにしています。
日本においても「身体障害者補助犬法」の施行により、補助犬の受け入れの輪が少しずつ広がり始めていますが、アメリカと同様に、広く理解を得るためにはさまざまな取り組みが必要です。
聴導犬は間違いなく難聴者の生活を一変させてくれます。事故によって聴力を失った、イギリス在住のスティーヴン・テイラー氏は“エコー”という名の聴導犬を得るまでは、生活を組み立て直すことに苦労を感じていたそうです。
彼女は、イギリス・ガーディアン紙の取材に対し「エコーを得たことで、再び外出する自信がつきました。以前は無理だと思っていたことが今ではできるようになり、再び人生を楽しんでいます」と話しました。
補助を必要とする人々に寄り添う聴導犬、盲導犬、そして介助犬……すべての補助犬たちの活躍にどうか惜しみない拍手をお送りください。
出典:米国「Healthy Hearing」2016年3月23日の記事「Hearing assistance dogs are changing lives」(Lisa Packer、スタッフライター寄稿)
※本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトは healthyhearing.comに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート