災害はいつ起きてもおかしくありません。身近に予期せぬ災害が発生した際に、いかに迅速に適切な方法で避難できるかは生命に関わる問題です。災害発生時には「聴覚情報」、発生後は「視覚情報」が頼りです。難聴者にとっては報知音にいち早く気づくことが難しいことが課題です。災害発生の情報をしっかりとキャッチできる準備を整えたいものです。
災害発生時には「聴覚情報」、発生後は「視覚情報」が頼り
業務用音響機器とセキュリティ機器の専門メーカー・TOA株式会社では、2017年に子どもを持つ男女603人を対象に「音と減災の意識調査」を実施しました。同社の調査によると、「災害発生時にいち早く危険を察知し、身構えたり、次の行動を起こすきっかけになったりする情報」についての問いに対して、「地震速報などの警報、非常放送、テレビのお知らせチャイムなどの聴覚情報」と答えた回答者が45.6%で第1位を占めました。
2位は「テレビのテロップやニュースなどの視覚情報」で35.7%、3位が「温度や振動などの触覚情報」で13.9%という結果となりました。
一方、「災害発生後に必要な情報を得るために最も頼りになるツール」は何であったかを聞いたところ、「視覚情報」が76.3%で圧倒的1位。次いで「聴覚情報」13.6%、「触覚情報」6.8%でした。
災害発生時には「聴覚情報」、発生後は「視覚情報」と、災害の前後のタイミングによって頼りにするものが異なることがわかります。
また、聴覚情報の中で「最も身の危険を感じる音」は、「緊急地震速報」が50.1%、「地鳴り」49.4%、「落雷」39.5%の順で、地震に関する音が上位を占めました。地震への警戒の高まりに伴い、地震を知らせる音の緊急情報への認知も高まっていることがわかります。また気候変動と共にこれまで自然災害の影響を受けにくかった地域を含み局地的な大雨に対しても全国的な警戒が必要です。
東日本大震災でも「報知音」が届かなかった方がいることが課題に
上記アンケートで半数の方が「最も身の危険を感じる音」としてあげている「緊急地震速報」は、地震の発生直後に、各地での強い揺れの到達時刻や震度を予想し、可能な限りすばやく知らせる情報です。
緊急地震速報が放送される際、最初にチャイムのような特定の音が流れます。この特定の音は「報知音」と呼ばれるもので、誰もが、どこでも、即座に理解できるように統一されていることが重要とされています。気象庁のHPによれば、「テレビやラジオ、防災行政無線等で使われているNHKのチャイム音を緊急地震速報の報知音として強く推奨しています。」とのこと。
強い揺れが来る時に、テレビやラジオなどの放送内容や、携帯電話で着信した内容を確認しているとそれだけで対応が遅れてしまいますが、この報知音を覚えておくことで、とっさに身を守る行動がとれるようになり、緊急地震速報のより有効な利用につながります。
しかし、聞こえに不安のある方にとって、こうした音の情報は正しく受け取るのが難しい場合が少なくありません。今後、各地で大規模地震が起きる可能性が指摘されるなかで、緊急を知らせる情報を得る準備は欠かすことができない重要事項です。
聞こえに不安がある方が気にしておきたい準備とは?
大規模な災害発生時には、聞こえが不自由な方には下記のようなトラブルが予想されます。
- 周囲の情報が入らず、避難方法や避難場所がわからない
- 地震の被害状況や避難場所についての情報がなかなか得られない
- 家具の下敷きになって身動きがとれないとき、捜索者の存在に気づかず救出に時間がかかる場合がある
- 避難場所に着いても、放送などが聞こえづらく、食事支援や援助物資などに関しての連絡を聞き取れないことがある
- 離れた場所にいる家族などと連絡を取り合うのが難しくなる
- 周囲とのコミュニケーションがうまくとれず、孤立につながってしまうことがある
- 補聴器や人工内耳などの電池の入手が困難になる
こうしたことを想定し、あらかじめ必要な備えをしていただくことが大切です。
先の東日本大震災を受け全日本ろうあ連盟のホームページで、厚生労働省の委託による、「聴覚障害者災害時初動・安否確認マニュアル」が掲載されています。このマニュアルは、災害時に聴覚障害を持つ方々の指針となる情報が解説されています。また、緊急地震速報をはじめとした情報を、受信できる準備をしておきましょう。
気象庁のホームページでは防災気象情報に関し、携帯電話へのメールサービス等を行なっている全国の自治体に関する情報がまとめられています。
気象庁HP、気象情報を手に入れるためには(各都道府県内における自治体のメールサービスを紹介しているページ)
また携帯メーカー各社では、不測の事態における避難情報や緊急速報メールのサービスを提供しています。詳細はどうぞお使いの携帯電話会社へご連絡ください。
ソフトバンク緊急速報メール(緊急地震速報+津波警報+特別警報+災害・避難情報)
そのほか、下記のような準備もおすすめします。
- 地域の支援ネットワークに積極的に参加しましょう。お住まいの自治体などでこれらの情報を得ることができます。
- 地域防災訓練等に参加しましょう。
- 職場や学校等の災害訓練に参加し、家族や身近な人々と災害発生時の対応や連絡方法などについて事前に話し合っておきましょう。
- 聞こえに不安のある場合は、緊急地震速報の受信がわかるように、携帯電話などを日ごろから手元におく習慣をつけていただくことも大切です。
- 補聴器は寝る時に枕元に置くなどして、とっさの時にすぐに持ち出せるようにしておきましょう。
- コミュニケーションのサポートになる筆記用具、また補聴器をお使いの方は予備の補聴器用電池を準備しておきましょう。 補聴器は水分を嫌います、補聴器をドライに保つことができるケースなども有効です。
日ごろから地域社会の人々と交流を持つことも大切です。あらかじめどのようなサポートが必要かを伝えておくことで、お住まいの地域で災害が発生した場合に、隣人または友人に声をかけてもらうように依頼することができます。弱者になりがちな人々をサポートするボランティアグループなども有力なサポーターです。
もしご家族など身近な方で補聴器を装用している方がいらっしゃる場合、話しかける時は、なるべく顔や口の動きが見える正面から普通の大きさの声で話しかけましょう。いざというときに身を守ることにもつながる補聴器は日常のお手入れも大切です。補聴器のお手入れについてはどうぞお求めの補聴器店へお持ちください。
■参照サイト
気象庁緊急地震速報について-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート -
記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■