最近の研究によると、聞こえの問題を抱えながらそのままにしておくことは、職場や遊び場での偶発的な負傷の危険性が高まる可能性があるかもしれないことが報告されています。難聴が怪我につながることを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。米国の大学の研究やリスクを減らす方法について見ていきましょう。
本年3月に発表されたこの調査では、米国疾病予防管理センターの発行による2007年から2015年までの全米医療聞き取り調査(National Health Interview Survey)のデータを用いて、成人で起こった偶発的な怪我にについて分析しました。各年3ヶ月分のデータを横断的に分析した結果、成人の2.8%に偶発的な怪我の発生が報告されており、またこのような怪我の発生率は聴覚の問題を抱える人々においては約2倍になることが分かりました。
研究によると、難聴は米国人の約16%に対して影響を与えているとされます。
国内に目を転じてみると補聴器メーカー各社で構成される日本補聴器工業会の調査によれば、自己申告による難聴者の割合は、11.3%(国内推計約1,430万人)とされています、無視できない数字です。
難聴と安全性
この研究の共同執筆者である米国カリフォルニア大学アーバイン校の耳鼻科部のホセイン・マボビ(Hossein Mahboubi)氏は、この研究が難聴と偶発性傷害との関連を明らかにしたと述べています。
「聴力が非常に低下している方について、野球ボールのようなものが飛んできた場合、あるいはサイクリング中に車のクラクションが近づいてくるといった場合に、それらが聞こえないかもしれないと仮定することができます。理論的には怪我をする可能性を高めることにつながります。」
研究に利用された調査データでは、回答者の約16%が自身の聴力が「良好」から「ろう」の間にあると回答しています。偶発的な怪我の経験について聴力が良好と回答した人では2%、聴力の問題を抱えている人ではこの割合が5%へと上昇しました。
偶発的な傷害は、ドライブ中のものと、レジャーでのもの、または仕事関連のものとに分けられました。レジャーでの怪我の割合は、健聴者に比較して聴力問題のある人では0.8%、ろう者で1.4%増加し、中程度または高重度の難聴者では、スポーツをしたり、他のレジャー活動をしたりした際に、怪我につながる可能性が高まることが示唆されました。
マボウビ氏は、本研究のためには米国疾病管理予防センター(Center for Disease Control and Prevention: CDC)発行のデータが使用されており、それぞれのカテゴリに関する詳細な情報までを得ることはできなかったと述べています。 「どのようなスポーツ外傷であったのか、または怪我が発生したときに回答者が何をしていたかなどといった情報までは、実際に区別することはできません」
健聴者と軽度の聴力低下のある人々では、ろうといった聴覚障害を持つ人々よりも職場での傷害率が高かいということも分かりました。 マボウビ氏は、難聴を抱えている人は、仕事上の危険性をより認識しており、怪我をする可能性が低いのではと示唆しています。
驚くべきことに、軽度の聴力問題を持つ人は、より重度の聴力問題を抱える人よりも怪我につながる可能性が高いということです。これについてマボウビ氏は「目から鱗の結果」であったと述べています。 マボウビ氏によると、被験者は難聴度を自身で報告しているため、情報は主観的であると語りました。しかし同氏は、結果は聴力低下と偶発的な傷害との関係を示すのに十分であると述べています。
さらなる研究が必要
この3月の研究は、マボウビ氏と彼の共著者の研究者たちが学会誌で発表した2番目の研究となります。 1月に発行された最初の研究では、2014年のCDCデータを使用し、聞こえの問題は、ごく一般的なものであること、そしてそれに対し人々がどのような対応をしているかについて決定づけるものでした。 「自身の聴力について聞こえの低下が感じられる」と回答した人々のうち、ちょっとした聞こえづらさを感じている回答者から、自分自身の聞こえがろうであり、ほとんど聞こえないと回答した人々まで、その3分の1の人々については、耳鼻科医など聴覚専門家の受診や、聴力検査を受けたことがないということも判明しました。」とマボウビ氏は語りました。
マボウビ氏らは1月の研究で、「自身の聴覚に問題があると感じている人と、聴覚専門医への紹介や、難聴についての検査を勧められた人との間にはかなりのギャップがある」と結論付けました。一方でこれが心臓についての問題や神経などの問題であった場合、専門機関での受診紹介といった数値ははるかに高まったはずです。しかし「聞こえの問題」についていうならば、それは他の健康問題ほど重要視されていないようにも見えます。」
CDCの調査データを用いたそれより以前の研究では、聴覚の問題を抱えた成人では職場で起こる怪我が健聴者に比較して1.5倍、ろう者ではほぼ2倍の確率で発生していました。しかし、これはマボウビ氏と彼の共著者による大規模な研究での発見事項の一部に過ぎず、マボウビ氏らはなぜそれが起きるのかついては明確ではありません。「その理由の一部は意識の不足であり、また部分的には、多くの人々が難聴や聞こえづらさとは、健康リスクではなく、その他の社会問題と同様にコミュニケーションが取れないことだと考えていることにも起因しているかもしれません。」
そして、このことは、マボウビ氏によるとより大きな問題を示唆していることになります。 「難聴には多くのことが言われています、おそらくほとんど誰もが難聴について知っていますが、それでも十分ではないかもしれません。聞こえづらさを感じている人が今まさにそこにいるとしても、その人々たちのほとんどが適切な検査などを受けられていないからです。だからこそ、聴力損失が怪我のリスクを高める可能性があることを示す2番目の研究が必要だったのです。すべてを考慮すると、一般の人々や医師の間で、難聴をより真剣に受け止めなければならないという意識が高まるにつれ、改善の余地があると思います」
マボウビ氏は現在、彼らが「難聴と死亡リスク」に関する第3の研究に取り組んでいると述べています。
偶発的な怪我のリスクをいかに減らしていくべきなのでしょうか
マボウビ氏らの目標は、聞こえの問題が健康上のリスクにつながる可能性があることを人々にもっと気づいてもらうことにあります。 「少なくともある程度の聞こえづらさがあると感じている人々には、耳鼻科医の受診、検査をお勧めします。」
聞こえを改善することは、偶発的な転びやすさや怪我の発生といったリスクを減らすことに役立つだけでなく、皆様の人生と生活の質(QOL)の向上へとつながります!
どうぞ最近聞こえ方がいつもと異なるなど、聞こえの低下が気になる場合は、耳鼻科医を受診ください。また先進の補聴器などについてはこちらからもご相談いただけます。
■National Health Interview Survey(英文)
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2018年6月19日の記事「Hearing loss and accidental injury」(Marlaina Cockcroft寄稿)-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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