コロナ以前のコンサートといえば、CDの売り上げ減少を補う好調ぶりで満員鈴なり、コンサートホールの座席をお客さんが埋めつくすという光景も珍しくありませんでした。しかし現在は水際対策により、海外からアーティストを呼ぶようなコンサートは開催自体が困難です。もし開催できたとしても、5000人以上の大規模となると感染防止対策により人数制限が課されているので、お客さんを満員まで集めるわけにはいきません。ところで、コンサートホールの座席についているお客さんの人数が減ることは、演奏の音の響きや音質に影響を与えるのだとか。今回はそんな音響にまつわるお話です。この難局を乗り越え、思い切り音楽が楽しめる日が来るのが待ち遠しいですね。
現在コンサートは人数制限をして密を避ける工夫がなされ、コロナ禍の中、恐る恐る開催されている状態です。
オーケストラにとってコンサートが開催できるということだけで嬉しいのですが、実は人数制限をしたことで理想的な音が出せないという問題も発生しています。
というのもコンサートホールは多くのお客さんが入った状態を想定して反響音などの設計をされているからです。
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コンサートホールの歴史を紐解くと、古代ギリシア時代の野外劇場では客の座る椅子の下に壺や瓶が配置されており、それによって楽器や歌声が綺麗に反響して大きく響くようになっていたそうです。これは野外劇場という性質上、どうしても音が拡散してスカスカに聞こえてしまうことからのアイディアだったみたいです。
実は日本でも能舞台などの床下に壺などが配置されていることが多く、偶然に同じようなことを考えていたのです。
古代ギリシャでは他に客席がすり鉢状に傾斜した形で配置されていたのも、客が見やすい聴きやすいということ以上に、反響音を作り出すことに一役買っていたみたいです。
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その後、コンサートを石造りの建物の中で行うようになり、それまでのように音を反響させるために壺や瓶を置くようなことはなくなりましたが、逆に石で囲まれた室内では反響音が強すぎてしまうという問題が発生しました。
そこで使われたのが再び壺で、今度は石で作った壁の中に壺を埋め込んで低音を吸収させるという方法が採られています。
海外では木造のコンサートホールはあまり作られていませんでしたが、通によると木造のホールは適度に音が吸収されるために音がぼやけずハッキリと楽器の音が聞き取れると言われています。
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実はワーグナーが設計したドイツのバイロイト祝祭劇場(1876年完成)は木造建築で、音響が特殊なこともあって「ワーグナーは自分の作った重厚な音を最大限に効果的に聞かせるための設計をした」と絶賛されたそうです。
しかし実際には最初の設計では石造りを考えていたのですが、資金不足から木造になったみたいです。
このバイロイト祝祭劇場はワーグナーの曲と、親戚筋のリストの曲と、なぜかベートーヴェンの「第九」だけは演奏できるそうです。ワーグナーファンは一度でいいからここで演奏を聴きたいと思っているそうですが、世界中のファン垂涎のプラチナチケットで入手困難となっています。
ワーグナーファンを公言していた小泉純一郎さんは、首相時代にドイツ歴訪を兼ねて劇場で国賓として演奏を聴いていますが、噂では音楽祭が開催されている7月下旬を狙ってドイツ行きの日程を立てたとも言われています。
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現在は天井や壁を客席ごとに最良の音が聞こえるような特殊な形で設計がされるようになっており、日々反響音の研究がなされています。そのこともあって、現在の間引きをされた客席は設計者にとっては歯がゆい状態になっているのです。
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ちなみに、コンサート会場や「8時だヨ!全員集合」でも有名だった渋谷公会堂はもともと、1964年東京オリンピックのウェイトリフティングの会場として建てられたものですが、大会後にコンサートホールとして使用するための設計がなされていました。
音の良さは多くの演奏家が絶賛しており、そのために『題名のない音楽会』などでも度々使用され、KISSやシンディ・ローパーなどの海外アーティストも「ブドーカンなんかでやるよりシブコーの方が好きだ」と発言していました。
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記事投稿者
杉村 喜光(知泉)
雑学ライターとして、三省堂『異名・ニックネーム辞典』、ポプラ社『モノのなまえ事典』など著作多数。それ以外に様々な分野で活動。静岡のラジオで10年雑学を語りテレビ出演もあるが、ドラマ『ショムニ』主題歌の作詞なども手がける。現在は『源氏物語』の完訳漫画を手がけている。
2022年6月15日に最新巻『まだまだあった!! アレにもコレにも! モノのなまえ事典/ポプラ社』が発刊。