普通の音量に対して、耐え難い苦痛や耳の痛みを感じる…聴覚過敏は、このような日常の音に対する異常な感受性により、痛みや不快感が誘発される症状とされています。本人にとっても、友人や家族にとっても戸惑いが大きい聴覚過敏の原因や治療について見ていきましょう。
聴覚過敏の症状
聴覚過敏の症状には、次のようなものが挙げられます。
- 片耳または両耳の痛みないしは不快感
- 耳閉感
- 耳がズキズキする、あるいはソワソワするような感覚
- 両耳間の感覚の不均衡(めまいやふらつきがある場合は、前庭聴覚過敏の可能性があります)
耳鳴りがある人のおよそ3分の1が聴覚過敏を訴えています。例えば、芝刈り機が横切ったり、別の大きな音を聞いたりすることで、耳鳴りが悪化する場合もあります。
聴覚過敏の誘因
痛みを訴える人の中には、聴覚過敏が発作的に起きる場合もあるようです。強大音にさらされた後に、さまざまな音が引き金となって、数日から数週間にわたって日常的に痛みが続くことがあります。鈍い頭痛、焼けるような痛み、ズキズキする痛み、鋭い刺すような痛みなど、症状は様々ですが、痛みがあると生活の質は大きく損なわれてしまいます。
聴覚過敏は珍しい?
騒音不耐性には複数の定義があることから、その有病率の推定値にも幅があります。例えばポーランドとスウェーデンの研究では、人口のそれぞれ9%から17%もの人が、騒音に悩んでいると答えています。米疾病管理予防センターによると、2014年の最新調査では、米国人の6%近くが騒音による不快感を抱えて暮らしていると報告しています。
騒音感受性、音嫌悪症、音恐怖症
聴覚過敏は音に対する異常反応のひとつで、ときに複数の症状を併発する場合もあります。「騒音感受性」 と診断される場合には、騒がしい環境に取り立てて大きな音が聞こえなくても、頭痛がしたり、疲労感を覚えることがあります。聴覚過敏の患者の多くは、咀嚼などの特定の音を極端に嫌う症状「音嫌悪症」も呈します。「音恐怖症」では、大きな音に対する極度の恐怖感を生じます。
難聴と強大音への反応
難聴がある場合は、いわゆる聴覚補充現象により、特定の音が突然驚くほど大きく聞こえることがあります。これは聴覚過敏とは異なり、一般的に痛みは伴いません。
耳鳴りと聴覚過敏の違い
耳鳴りとは、耳の中で絶えず音が鳴っている状態です。聴覚過敏との大きな違いは、耳鳴りは他の人には聞こえず、本人の脳が聞こえると判断している点にあります。大きな音は、耳鳴りを悪化させることがあります。
一方、聴覚過敏は、外部環境にある音が過剰に増幅されることによって起こります。聴覚過敏がない人には、同じ音が普通の大きさで聞こえます。
耳鳴りは非常に一般的ですが、人によっては耳鳴りと聴覚過敏を併発することがあります。場合によっては、治療法は同じです (以下を参照) 。
退役軍人における聴覚過敏(※編注:米国の事例)
騒音暴露の経験がある被験者群は、日常的な騒音をより煩わしく感じる傾向にあります。2019年の研究によると、爆音にさらされた経験のある退役軍人のおよそ半数と、爆音にさらされたことがないと答えた退役軍人の3分の1に、一定程度の音への不耐性が認められたことが報告されています。一般的に、退役軍人に対する難聴および耳鳴りのリスクは、通常よりも高いことがわかっています。
聴覚過敏の原因
無線信号が弱い場合に音量を上げて補うように、聴覚系は、神経の損傷による不完全な情報伝達を補完するために、脳内のボリューム調整器で音量(医学的には「聴覚利得」と呼ばれます)を上げることがあります。これによって、大きな音はよりいっそう増幅されて聞こえてしまいます。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?聴覚過敏の原因には以下が挙げられます。
- 就労環境における騒音公害
- 頭部外傷
- 医薬品ないしは毒素等による片耳または両耳の損傷
- 内耳あるいは顔面神経に影響を及ぼすウイルス感染症 (ベル麻痺)
医学誌 「Noise&Health」 の記事によると、聴覚過敏の人が通常よりもかかりやすい病気がいくつかあるとされています。聴覚過敏がこれらの病気の共通原因である場合もあれば、病気の症状として結果的に聴覚過敏を呈することもあります。こうした病気には、うつ病、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)、顎関節症(TMJ)、ライム病、テイ‐サックス病、片頭痛、ある種のてんかん、慢性疲労症候群、メニエール病、自閉症スペクトラム障害などが含まれます。
聴覚過敏の診断
まずは、聴覚過敏をもたらす可能性のある病気を特定または除外するために、耳鼻咽喉科医による診断を仰ぎます。
聴覚過敏の診断では、不快感を引き起こす音量レベルを測定することができますが、それ以外にも、既往歴、服用薬、騒音暴露の有無、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) や不安障害ならびにうつ病の徴候などについての問診も検査に含まれます。
聴覚過敏の治療
場合によっては治療法がないわけではありませんが、聴覚過敏の原因によって対処法は異なります。例えば、聴覚過敏の原因がけがによるものであれば、回復するにつれて症状が改善する場合もあります。
聴覚過敏に加えて難聴がある場合は、適切に調整された補聴器を装用することで症状が改善される、とニューヨーク市のノースウェル・ヘルス・レノックス・ヒルのオージオロジスト兼マネージャーのルース・ライスマン博士は述べています。難聴によって聞こえにくくなった小さな音は増幅し、大きな音のボリュームは下げるような調整を行う必要があります。
音響療法
場合によっては、音響療法を行う専門家に相談することも必要です。非常に小さな音量に設定した雑音を日常的に片耳あるいは両耳で聞きながら、徐々にボリュームを上げていく治療法は、「耳鳴り再訓練療法 (TRT)」 と呼ばれます。半年から1年以内に症状が改善する場合もあります。なぜ雑音を聞くことで改善するのでしょうか?一部では、情報量が増えることによって、音量を下げる指令が脳内に出される可能性が指摘されています。
また、音嫌悪症や音恐怖症による不安障害がある場合には、認知行動療法も役立ちます。
専門的な治療法は、聴覚障害の原因によって異なります。さまざまな音量で音楽を聴く「聴覚統合療法 (AIT) 」は、ときに自閉症スペクトラム障害の患者に用いられるほか、聴覚過敏の患者にも用いられることがあります。
騒音障害を回避するには
特に痛みが繰り返し起こる場合は、爆音から身を守ることが大切です。最も簡単な方法は、騒音を抑制するヘッドホンや耳栓を使用することです。「地下鉄に乗るときやパーティーに行くときに、聴覚保護のために使用している人もいます」 とライスマン博士は述べています。
聴覚保護
音量調節機能を持つミュージシャン向けの耳栓や、軍隊用に作られた高機能な耳栓もあります。
騒音が生じる環境に就労する場合、日本の法律では、労働安全衛生規則に基づき職場の騒音防止のガイドラインが定められています。
騒音障害防止のためのガイドライン – 厚生労働省(外部サイト。PDF)
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2021年3月31日の記事「What is hyperacusis?」(Temma Ehrenfeld 寄稿)
https://www.healthyhearing.com/report/53076-Hyperacusis-when-ordinary-loud-sounds-hurt-your-ears
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■