日本では補聴器の装用率が欧米諸国に比べて低い傾向にあります。高齢化社会が進む中で、なぜ日本では補聴器が普及しないのでしょうか。その理由として、いくつかの要因が考えられます。この記事では、日本で補聴器が普及しにくい要因を考察するとともに、補聴器装用によって得られる良い影響とそのためのヒントをお伝えします。
日本における補聴器の現状
大規模市場調査 JapanTrak(ジャパントラック)2022によると、難聴を自覚している人における補聴器所有率は、日本では15.2%でした。
欧米諸国の補聴器の所有率は、デンマークとイギリスが50%を超えており、ドイツ、フランス、ニュージーランド、スイス、オランダオランダにおいても40%を超える結果でした。グラフ1)
また、日本では、聴力低下を自覚している人の補聴器所有率が2018年の14.4%から2022年の15.2%にかけて0.8ポイントの増加にとどまっている一方で、欧米諸国では2.7~5.2ポイントの増加がみられます。表1)
欧米諸国の補聴器所有率の増加に対して、日本は増加の幅が小さく、欧米諸国に比べて日本では補聴器が普及しにくい傾向にあることが確認できます。
全人口に対する補聴器の所有率を見ても、日本の1.5%は欧米諸国の補聴器所有率の半分以下の割合です。日本の補聴器所有者は主に75歳以上の高齢者が多い2)状況です。しかし、75歳以上の高齢者は年々増加している3)にもかかわらず、補聴器の所有率はわずかに下がっているデータからも、日本では補聴器の普及が進んでいないことがわかります。
グラフ1 日本と欧米諸国における補聴器所有率(2022年) 出典:EHIMA SURVEYS EuroTrak
表1 日本と欧米諸国における聴力低下の自覚のある人及び全人口に対する補聴器所有率 出典:EHIMA SURVEYS EuroTrak
国 聴力低下の自覚のある人の補聴器所有率 全人口に対する補聴器所有率 2022年 2018年(2016年) 2022年 2018年(2016年) 日本 15.2% 14.4% 1.5% 1.6% デンマーク 55.4% 53.0%(2016年) 6.0% 5.5%(2016年) イギリス 52.8% 47.6% 4.7% 4.6% ドイツ 41.1% 36.9% 4.6% 4.5% フランス 45.7% 41.0% 4.4% 4.1% ニュージーランド 44.4% 41.6% 4.6% 4.2% スイス 46.0% 43.7% 3.4% 3.3% イタリア 35.2% 29.5% 4.4% 3.6% オランダ 44.9% 41.1%(2016年) 4.6% 4.2%(2016年)
日本での補聴器の普及率が低い理由
日本で補聴器の普及率が低い理由は、いくつか挙げられます。
補聴器購入における公的補助制度の認知不足
補聴器の所持率が高いデンマークやイギリスでは、必要に応じて補聴器が無料で提供されています。欧米諸国では補聴器に対する公的支援制度が整っている国が多く、4,)5)社会全体としても補聴器の使用が受け入れられやすい風潮にあると考えられます。
日本でも補聴器は、難聴のレベルによっては障害者総合支援法や自治体の公的補助制度の対象です。しかし、補聴器を持っていない難聴者のうち、補聴器購入の公的支給補助制度について知っている人はわずか8%にすぎません。2)
このように、補聴器購入時の助成についての認知度が低いことも、日本で補聴器の普及が進まない理由の一つと言えるでしょう。
補聴器の適切な相談とフィッティングを受けていない
補聴器を使用しない理由として「難聴がそんなにひどくない」「元の聞こえには戻らない」といった意見が挙げられています。2)
難聴の程度については自分で判断せず、補聴器の装用による聞こえの回復に対する疑念は、まずは、耳鼻咽喉科の専門医による自分の適切な聴力の評価を受けることが大切です。その上で『聞こえの程度に応じた補聴器の選択』『聞こえの状態やライフスタイルに合わせたフィッティング(補聴器の調整)』『補聴器に慣れるためのリハビリテーション』によって、聞こえの回復が期待できます。
聴力に合った適切な補聴器の選択やフィッティング、リハビリテーションは、補聴器相談医(耳鼻咽喉科医師)への相談や、認定補聴器技能者・言語聴覚士の在籍する補聴器販売店での補聴器購入が必要です。
ところが、実際には難聴者のうち、耳鼻科医師やかかりつけの医師に相談した人は38%にとどまっています。2) この現状から、適切な補聴器の購入やフィッティングに至っていない場合が多いと推測されます。
インターネットで補聴器を購入した人の満足度が低い2)というデータからも、適切な相談とフィッティングが重要だと言えるでしょう。
補聴器から得られる良い影響
補聴器の装用により、今もよりも快適な生活が期待できます。
生活の質の向上
補聴器は装用者それぞれの聞こえの状態に合わせて調整して使用する管理医療機器です。聞こえの低下は物理的な聞こえにくさの障害だけでなく、次のような要因にもなります。
- 周囲の危険を察知しにくくなる
- 会話や交流会に参加しづらいことから、孤立することへの不安や気分の落ち込みを感じる
- 社会参加の壁となる
こうした不安や社会参加の壁は、コミュニケーションや外出の頻度を減らし、生活の質 (QOL) を大きく低下させます。
補聴器の装用により、自信を持って街中で行動できるようになった人が77%という報告2)がありました。この結果からも、補聴器は個人の気持ちや行動に前向きな影響を与え、ウェルビーイングに貢献すると言えるでしょう。
優れた利便性
「わずらわしい」「周りから目立つ」「耳が聞こえにくいことを周りに知られたくない」など、補聴器の装用自体への抵抗感を持つ人も少なからずいらっしゃるのが現実です。補聴器の『見た目』に関しては、近年では従来の補聴器に比べてコンパクトでデザイン性の高いものも増えており、まわりから目立ちにくい耳あな型補聴器という選択肢もあります。
さらに、Bluetooth搭載の補聴器はスマートフォンやテレビ、固定電話との接続によって、音声がよりクリアな聞こえの実現が可能となり、利便性に優れています。音量や設定を調整する周辺機器のリモコンとしての機能もあり、デジタルデバイスと合わせて活用することで、コミュニケーションやエンターテイメントを今よりも楽しめるようになるでしょう。
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補聴器相談医の受診と適切なフィッティングが重要
日本における補聴器装用率は欧米諸国に比べて低く、増加の傾向も緩やかです。その理由として「高価」「聞こえが回復しない」といった点が挙げられますが、聴力やライフスタイルに合った補聴器の選択やフィッティングを受けることで生活の質の向上が期待できます。
近年では、インターネットで気軽に補聴器を購入できるようになっていますが、満足のいく使用感を得るためには補聴器相談医を受診し、補聴器販売店にて専門的なサポートを受けることが大切です。購入前の無料レンタルも活用し、納得のいく補聴器選びで今よりも快適な生活を送りましょう。
参考
1)EHIMA SURVEYS EuroTrak https://www.ehima.com/surveys/
2)一般社団法人 日本補聴器工業会 JapanTrak 2022 調査報告 https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf
3)総務省 報道資料 統計からみた我が国の高齢者 p.4 表2 高齢者人口及び割合の推移(1950年~2045年) https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf
4)ジェトロ(日本貿易振興機構)デンマークの福祉機器産業 p.189 https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/05000382/05000382_001_BUP_0.pdf
5)DINF障害保健福祉研究情報システム 第7節 イギリス p.276 https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/jiritsu/hikaku-h20/chosa_divide/s7.pdf
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記事投稿者
丹野 愛
フリーライター。医療・介護系のサイトコンテンツやコラムなどを執筆。作業療法士。福祉住環境コーディネーター2級。認知症ライフパートナー2級。