スポーツの熱狂は騒音でもあります…新年の訪れとともに、米国ではスーパーボウルの話題で盛り上がり始めます。スーパーボウルはメジャースポーツであるアメリカンフットボールのNFLリーグの優勝決定戦で、毎年2月に開催される米国最大のスポーツイベントの一つです。その2014年の試合で、補聴器メーカーのオーティコンが独自にユニークな実験を行い、全米メディアの注目を浴びました。そのときに報告された、聞こえとスポーツ観戦に関するレポートをご紹介します。
聴覚専門家たちが実際に測定してリサーチ
デンマークに本社を持ち、米国でも主要メーカーの一つである補聴器メーカー・オーティコンが行ったのは、スーパーボウルの試合が行われる「スタジアムの騒音」や「試合中のさまざまな音」「音と気温の冷たい関係」「熱狂と興奮と騒音のスポーツバー」「観戦時の聞こえのアドバイス」といったさまざまなトピックについてのリサーチ。
NFLとは、AFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)とNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)、2つのいわばリーグに分かれてレギュラーシーズンを争いさらに頂上決戦であるスーパーボウルの出場権を得るために上位チームがポストシーズンとも呼ばれる優勝決定戦の前哨戦となるプレーオフを全米各地で戦います。
このプレーオフの期間中にオーティコンの聴覚専門家(オーディオロジスト)たちが、この年プレーオフが行われた各都市にある人気スポーツバーを回り、NFLの公式試合が最高潮に盛り上がったときの実際の騒音レベルについて測定しました。
試合が行われたスタジアムの騒音は、難聴を誘発するレベル!
調査の結果、NFLリーグの試合における平均的な騒音レベルは、およそ90デシベル(db)半ばと判明しました。これは電動工具を使った時と同レベルの騒音です。 85デシベル以上の音を繰り返し浴び続けると、騒音性難聴になる可能性があります。
さらに、騒音には人の不安や攻撃性を増幅させたり、他人に対する思いやりや分別などを抑制してしまう影響もあると言われています。
ちなみに、米国の屋外スポーツスタジアムにおける最大騒音記録を保持しているのは、熱狂度が高いことで有名なNFLチーム・シアトルシーホークスのファンたち。彼らの盛り上がり時の記録は137.6デシベルで、これは打ち上げ花火の破裂音と同等のレベルです。
音は気温が低くなると遅くなる!?
2014年のスーパーボウルが行われたニュージャージー州北部の2月の平均最低気温は、約マイナス5.6℃。この時期屋根が開放されるオープンドーム型であれば、吹き込む冷たい風によってさらに気温が下がることが予想されます。
気温が低くなると、音の速度に若干の遅れが生じることをご存じでしょうか?
たとえば0℃のときの音は秒速331mですが、20℃のときには秒速343mになります。寒さの厳しいスポーツ競技場では、選手の声もファンの応援も、少しだけ遅れて耳に届いているのです。
スポーツバーの熱狂は自動車のクラクション以上
NFLのプレーオフ中オーティコンの聴覚専門家は各地の人気スポーツバーに潜入し、騒音レベルを計測した結果、スポーツバーの騒がしさは平均70デシベルで、掃除機の出す音とほぼ同等ということが分かりました。
得点につながるタッチダウンの時には110デシベルまで上昇し、ファインプレー時にはなんと111.2デシベルにも!自動車のクラクションを上回る大音響となることが判明しました。
スポーツを観戦するにしては、スポーツバーの騒音はちょっと大きすぎるかもしれません。ミネソタ大学の研究によれば、スポーツバーで観戦しているファンは騒音に慣れ親しんでいるため、普通なら騒がしいと思うような大きさの騒音も気にならない傾向にあるそうです。
また、ある調査によると、適度なアルコールは難聴予防の役に立つそうです。とはいえ、1日4杯以上のアルコール摂取は逆に高域での難聴になる可能性を高めてしまうので、注意が必要です。
選手のヘルメットは、ケガは防ぐが騒音は防がない!?
選手の耳には、ヘルメット側面の穴からフィールドの騒音とさまざまなかけ声が流れ込んでいきます。
オーティコンの聴覚専門家が音響調査用マネキンにNFLの公式ヘルメットをかぶせて検査したところ、ヘルメットの有無にかかわらず聞こえる騒音レベルはほぼ同じという結果が出ました。つまり選手はヘルメットによってケガからは守られますが、騒音からは守られていないというわけです。
ちなみに、アメフトの試合では「ハドル」と呼ばれる、選手が作戦会議のために円陣を組む光景がよく見られます。これはもともとろう学校の選手たちが行ったもの。試合中のコミュニケーション手段として手話を使っていたところ、相手チームに読まれてしまうため、その対抗手段として、1894年にギャローデット大学のクオーターバックが円陣を組んで手話を隠したのが始まりです。
スポーツ観戦で聞こえを守るためには
スポーツ観戦をする際には、耳を守るために、耳せんやノイズキャンセリング機能のついたイヤーマフをお持ちいただくことをおすすめします。両方を一緒に使えばさらに効果が期待できます。
耳せんは近所の薬局などで、数百円から購入できます。帽子やマフラーはしもやけ対策にはなりますが、大きな騒音から耳を守る役には立ちません。
また、休憩が必要なのは選手だけではありません。耳にも休息が必要です。時には騒音から離れ、スナックを買いに売店に行ったり、スタジアム周辺を歩いたり、記念品を探しに土産物屋をのぞいたり、理由はなんであれ騒音の中心から離れて耳を休ませてあげましょう。
騒がしい場所にいた後、しばらく耳鳴りがするのはよくあることです。ただし耳鳴りが3日以上続くようなことがあれば、迷わず耳鼻科を受診してください。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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