犬、猫、うさぎ、フクロウ、サル、パンダ…動物を思いつく限り挙げてみてください。いずれも耳が2つあるはずです。2つの耳で音を立体的にとらえることが生存に有利に働き、今日の動物まで引き継がれてきたのです。今回はいろいろな動物の耳の進化についてご紹介します。
ほとんどの動物の耳は二つあります。これは音の方向を立体的に正しく把握するためです。
その中で耳に特徴のある動物としてウサギがいますが、これは動物としては弱者であることから敵の動きを誰よりも早く察知するために集音器として進化したものであり、危険回避のために脚力を強化して素速く逃げるようになりました。
ただし絵本でよく書かれる耳の長いウサギは基本的に西洋のウサギで、日本に古くから棲息しているウサギはさほど耳が大きくありません。これは日本には凶暴な動物があまりいなかったということも関係しています。
そして耳の表面積が大きいということは、必死に逃げ回った時に体の熱を素速く逃がすことにも役にたっています。
耳の大きな動物としてゾウもいますが、ゾウの場合は凶暴な動物に襲われても大丈夫な大きな体と堅い皮膚を手に入れたことから、集音器としての役割はあまりありません。
ゾウは暑い場所に生息することから、耳を使って体を冷却しています。と言ってもウチワのように風を送るというワケではなく、ウサギと同じように耳の表面積を広くしてここから熱を逃がしているのです。
そしてインドゾウとアフリカゾウを比べるとアフリカゾウのほうが耳が大きいのは、アフリカの方が気温が高いということが関係しています。
動物にとって耳は危険察知のための重要なアイテムですが、犬はピンと立った耳だけでなく、垂れた耳を持つ種類もいます。当然ながら垂れた耳はあまり音を拾う事ができません。
本来、犬の耳はピンと立っていたらしいのですが、人間と長く共存している間に品種改良によって様々な耳へと変化していったもののようです。
狩猟用として改良されたポインターやビーグルなどは、獲物に耳を噛まれたり、獲物が逃げ込んだ小さな巣穴に潜り込むときに、邪魔にならないように耳にオモリをつけて垂れるように品種改良されたと言われています。
さらに顔が長細いコリーやシェットランド・シープドッグなどは耳が立っていると表情が冷たく見える、という理由から耳が折れるように改良させられたとも言われています。
基本的に2つある耳は顔の両側の同じ場所に存在していますが、フクロウは一部の種類を除いて左右同じ位置に耳が付いていません。多くのフクロウが左右で少し上下にズレた耳を持っています。
これは暗闇の中を行動するフクロウならではの特徴で、これによって目標の位置をより的確に把握するのです。
そして目の周囲が平らになっているフクロウも多いのですが、これはパラボラアンテナのように音を集めることに使われています。
ちなみにフクロウは顔の左右に飛び出した羽根が特徴的な種類もいますが、これは耳ではなく、ただの飾り羽根です。
人間の耳は、他の動物と比較してあまり優れているとは言えません。
ウサギやネコなど多くの動物は外耳とよばれる部分が飛び出して集音器の役割を果たしていますが、人間は視覚が発達したこと、そして生活圏内に襲ってくる敵がいなくなったことから外耳の必要性が少なくなりました。さらに体温を下げる役割も人間は汗腺が発達したことから必要無くなり小さくなっていったのです。
すべての動物の形態はそれなりの理由があって進化しているのです。
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記事投稿者
杉村 喜光(知泉)
雑学ライターとして、三省堂『異名・ニックネーム辞典』、ポプラ社『モノのなまえ事典』など著作多数。それ以外に様々な分野で活動。静岡のラジオで10年雑学を語りテレビ出演もあるが、ドラマ『ショムニ』主題歌の作詞なども手がける。現在は『源氏物語』の完訳漫画を手がけている。
2022年6月15日に最新巻『まだまだあった!! アレにもコレにも! モノのなまえ事典/ポプラ社』が発刊。