耳の聞こえに関する問題は、本人だけでなく一緒にいる家族や周囲の人にも切実です。何とかうまくコミュニケーションをとりたいと頑張りつつ「耳の遠い親についイライラしてしまう」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、『家族の聞こえ』にお悩みの方が問題解決の糸口を見つけるにあたって押さえておきたい次の4つのポイントをご紹介していきます。
- 加齢性難聴で知っておきたいこと(症状や原因)
- 耳の遠い親との接し方のポイント
- 加齢性難聴におけるリスク
- 「補聴器」を検討するタイミングとその効果
【親の耳が遠いかも?と感じたら】知っておきたい「加齢性難聴」によくある症状と原因
高齢者の「加齢性難聴」でよくみられる症状
ご高齢の方の聞こえが悪くなる原因で、もっとも多いのは「加齢性難聴」という加齢にともなう聴力の低下です。加齢性難聴は本人が気づかない、あるいは隠したがる傾向があるため、ご家族がその兆候を見逃さずできるだけ早い段階で専門家に相談することが大切です。
その判断材料として、加齢性難聴でよくみられる症状をご紹介します。ご両親の耳が遠いと感じたら、日常生活にこれらの兆候がないかまずはチェックしてみましょう。3つ以上当てはまる場合は加齢性難聴の可能性があるので、まずは耳鼻科の受診をおすすめします。
- 会話の途中で聞き返しが多くなる
- テレビの音量がやたら大きい
- 早口で話すと聞き取れない
- 1対1だと問題ないが、数人になると会話ができない
- 周囲が騒がしいと聞き取れない
- 後ろから呼びかけると気づかないことがある
- 聞き間違いが多い
- 昔と比べ、話す声が大きくなった
- 電子レンジの音やドアのチャイムが聞き取れない
- 車やバイクの音に気づきにくい
高齢になると耳が遠くなるのはなぜ?(加齢性難聴の原因)
年を取ると次第に耳が遠くなるのは、音を感知したり大きくしたりする細胞(有毛細胞)が加齢によって減少するためです。また、耳から脳へ音を伝える神経の伝達に障害が起きたり、脳の認知能力が低下したりすることも加齢性難聴の原因になります。
【イライラしないために】耳が遠い親に家族はどう接したらいい?
年を取ったらある程度はしかたがないとはいえ、耳が遠いことにイライラしたり、会話のたびにギスギスしたりするのは、本人のみならず家族にとってもつらいものです。しかし、そのイライラも加齢性難聴の特徴をよく理解し、接し方を工夫することでストレスを軽減できます。
ここでは、耳の遠い両親とのコミュニケーションをスムーズにするポイントをいくつかご紹介します。
正面からハッキリ・ゆっくり話す
加齢性難聴はただ音が小さく聞こえるだけでなく、音がぼやけて聞き取れない傾向があります。例えるなら、暗がりでシルエットだけがぼんやり見えているのに近い状態です。
したがって、単に大きな声で話すのではなく、1つ1つの言葉をハッキリ、ゆっくり話すように心がけましょう。また、話すときは本人の正面に回り、口元が見えるようにするのもポイントです。
話しかける前に「肩をたたく」「手を振る」など合図する
加齢性難聴の方は急に話かけてもどこから音が聞こえているかがわからず、すぐに反応できないことも少なくありません。
したがって、話かける前に肩をたたく・手を振るなどして「これから話をはじめるよ」という合図を送り、話し手に注意を向けることが大切です。
イライラしたら、いったん会話を中断する(大声で怒鳴らない)
色々工夫をしてみても、やはり耳の遠い親との会話はイライラしてしまうものです。しかし、ここで大声で怒鳴ってしまうと相手も冷静になれず、逆効果になってしまいます。
したがって、会話中にイライラしてきたら、無理に続けずに一旦中断してみましょう。「トイレに行く」「お茶を飲む」など数秒だけ間を空けるだけでも、気持ちのクールダウンには効果的です。
親が「耳が遠いこと(難聴)」に気づいていない・・・こんなとき、どうする?
加齢性難聴は少しずつ聴力が低下するため、自覚がないまま本人がそのことに慣れてしまい、不自由に感じていないことも少なくありません。そのため、本人と周囲とで聞こえの感じ方に温度差が生じてしまうことも、家族間のストレスのもとになってしまいます。
このように本人が難聴に気づいていない、あるいは認めたがらない場合は、ご家族以外の第3者が自分の聞こえをどう評価しているのか知ってもらうのも方法の1つです。一番良いのは耳鼻科での検査ですが、少しハードルが高いと感じる場合は以下の「難聴障害度質問票(HHIE-S)」を活用してみるのもよいでしょう。
この表は世界中で使われる難聴の評価表で、難聴の度合いを客観的に知る指標の1つになります。このようなご家族以外の客観的な評価も、本人が自身の聞こえの変化に意識を向けるきっかけをつくるうえで重要です。チェックの際は「あなたは」「お父さんは」「お母さんは」などを冒頭につけて質問してみましょう。
【加齢性難聴におけるリスク】「耳が遠くても親が困ってないのなら」の油断は禁物
耳が遠いことにイライラしつつも、「本人(親)が不自由していないなら少し様子をみよう」と思われる方もいらっしゃるでしょう。ただ、加齢性難聴の放置は以下のようなリスクをともなうため油断は禁物です。
リスク①「交通事故」や「転倒」が増える
難聴の方は耳の聞こえが正常な方と比べ、交通事故や転倒のリスクが高いことが国内外の調査で明らかになっています。耳からの情報が少なくなると運転ミスが多くなるほか、歩行の際に車や自転車の往来に気づきにくくなるため注意が必要です。また、耳の聞こえはバランス感覚とも無縁ではなく、難聴の人はそうでない人よりも転倒のリスクが3倍高くなるという報告もあります。
リスク②難聴が「認知症」の引き金になることも
世界的に権威の高い医学雑誌「ランセット」の報告では、認知症で予防が可能な原因のうち、最も影響が大きな要因に難聴が挙げられています。耳の聞こえが悪くなると脳への刺激も減少するほか、他者との関わりを避けて孤立しやすいことなどが認知症のリスクを高めると考えられています。
耳の遠い親に「補聴器」は必要? 本当に効果はある?
補聴器の使用を考えるタイミング:まずは耳鼻科に相談
高齢の親の難聴に関する問題解決に、補聴器の使用を検討される方も多いと思います。ただ、補聴器の使用に際しては、はじめに耳鼻科を受診して必要な検査を行い、補聴器が必要かどうかの判断をあおぐことが重要です。先に挙げた2つのチェックリスト(加齢性難聴によくある症状・難聴障害度質問票)で当てはまるものが多い場合は、時間を置かずに早めに耳鼻科を受診しましょう。
補聴器所有者の半数が「もっと早く補聴器を使用していればよかった」と感じている
補聴器を検討しつつ、「それで本当に問題が解決するのか」と疑問に思われる方へ、以下の調査報告をご紹介します。
こちらは「ジャパントラック」という補聴器業界の団体が補聴器所有者430人を対象に行ったアンケート調査の結果です。
「補聴器をもっと早くに使用すべきだったと思いますか?」という質問に、約半数の方が「はい」と回答しています。さらに、97%の方が補聴器の使用により生活の質(QOL)が何かしら改善したと感じていらっしゃいます。
以上の結果からもわかるように、補聴器は「もっと早くに使っておけば良かった」と使用者が思えるほどその満足度は高いようです。このような使用者の声もぜひ参考に、ご家族で補聴器の使用を検討してみましょう。
まとめ
家族の「聞こえ」に関する問題の解決では、難聴の特性や病気に関する理解を深めることにくわえ、第3者や専門家の意見を聞いてみることも大切です。今回ご紹介した2つのチェックリストに当てはまる項目がある場合は、耳鼻科の受診や補聴器の使用について本人とよく相談してみましょう。
耳の聞こえや補聴器についてのご相談はヘルシーヒアリングの「無料相談」でも承っております。耳鼻科にかかる前に知りたいこと・聞きたいことなどもぜひ本サイトのWEBフォームにてお気軽にご相談ください。
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記事投稿者
影向 美樹
影向美樹(ようこう みき)/医療専門ライター。元医療従事者(国家資格保有)。健康・医療に関する正しい情報をわかりやすく、丁寧にお届けいたします。
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記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■