イヤホンは難聴の“聞こえ”にも有効なのでしょうか?昨今、補聴支援機能の付いたイヤホンが多く販売されています。補聴支援機能とはどのような機能であるか、また、イヤホンと補聴器の違いやそれぞれの適応について知り、イヤホンと補聴器の適正な使用につなげましょう。
補聴支援機能付きのイヤホンとは
“音楽を聴く”“動画を視聴する”“通話する”などの際に、イヤホンの「音源を聞く」機能に加えて、周囲の音を聞こえやすくするための補聴支援機能が備わっているイヤホンがあります。
補聴支援機能としては、「ノイズキャンセリング機能」「外音取り込み機能」「個人の聞こえの好みに合わせた調整機能」などが挙げられます。
ノイズキャンセリング機能
周囲の雑音を減らす機能です。騒音が大きい場所でも音楽や音声などをより明確に聞くことができます。
イヤホンと耳のすき間を密閉性の高い素材のパッドなどで物理的に塞ぎ、周囲の騒音を遮音しやすくするタイプと、デジタル信号を解析して騒音を打ち消す音を発生させることによって騒音を減らすタイプがあります。
外音取り込み機能
イヤホンを装着しながら、外部の音を聞き取ることができる機能です。
例えば、人の声や緊急車両のサイレン、車の走行音などを聞き逃さずにイヤホンから流れる音を聞けます。イヤホン内臓のマイクで周囲の音を集めて耳に伝えます。
個人の聴覚に合わせた調整機能
個人の聴覚を専用アプリによって測定・分析して、聞き取りやすく耳に負担の少ない音へ自動的に調整する機能です。使う人が聞きやすい音の周波数に合わせて、音の高さや低さを調整する周波数特性調整機能や、聞こえにくい周波数の範囲の音を強調して、音を聞こえやすくする周波数帯域調整機能が搭載されているイヤホンがあります。但し、専門医や専門家を介さないため病状や耳の形状、難聴の種類、アフターフォローなどの様々なことには対応できません。
補聴支援機能付きのイヤホンの種類と特徴
複数のメーカーから、補聴支援機能の付いたイヤホンが製品化されています。ここでは4種類の補聴支援機能付きイヤホンをピックアップして、それぞれの特徴について説明します。(情報は2023年2月19日時点)
製品 | 補聴支援機能 | 特徴 |
---|---|---|
A社 (アメリカ) |
・ノイズキャンセリング ・外音取り込み |
・A社デバイスとの相性が良く、通話や音楽の再生などの操作が簡単に行える。 ・アプリを介して周波数の設定ができ、自分好みの音質にカスタマイズできる。 ・防水・防塵性能付きでランニングやジムでの使用にも向いている。 |
B社 (アメリカ) |
・ノイズキャンセリング ・外音取り込み |
・ワールドクラスのノイズキャンセリング機能が特徴。 ・ノイズキャンセリングと外音取り込みの切り替えが左のイヤホンをダブルタップするだけで行える。 ・音量に合わせて低音のバランスが取られた音響を楽しめる。 |
N社 (オーストラリア) |
・ノイズキャンセリング ・外音取り込み ・個人に合わせた調整機能 |
・専用アプリを用いて聴力の測定と分析を行い、データを基に個人に合わせた「聞こえ」を提供。 ・家・学校・ドライブなどの7つの場所に合った音の調整をあらかじめ設定しておける。 ・バッテリーが長持ちしやすい。 |
P社 (オーストラリア) |
・ノイズキャンセリング ・外音取り込み ・個人に合わせた調整機能 |
・専用アプリで聴覚測定を行い、自動的に個人の聞きやすい音を再現します。さらに手動でも調整が行えます。 |
イヤホンと補聴器の違いと適応
イヤホンと補聴器は、機器としての位置づけや目的に違いがあります。
イヤホンと補聴器の違い
イヤホンと補聴器との大きな違いは、イヤホンは「音響機器」であるのに対して、補聴器は「管理医療機器」であることです。
補聴器は医薬品医療機器法において、「副作用や機能障害が生じた場合に生命や健康に影響を与える恐れがある」と定義されるクラスⅡに分類されています。
イヤホンは音響機器として音楽プレイヤーやスマートフォンに接続し、主に音楽や動画などのエンターテイメントを目的として使用されます。一方で、補聴器は「音が聴こえにくい」「会話をしにくい」などの日常生活を送る上で支障がある人の“聞こえ”をサポートする管理医療機器です。
イヤホンと補聴器の適応
イヤホンはそれぞれのメーカーや製品によって、さまざまな特徴があり、使いたい人の目的や使い心地、デザインの好みなどによって自由に購入することが可能です。
補聴器は、適正な使用のためにも耳鼻咽喉科の補聴器相談医によって、難聴問題の診断・治療および補聴器が必要であるかの診断を受けることが大切です。耳鼻咽喉科を受診の上、必要であれば、補聴器についての知識や技能を有し、適切なフィッティングを行える補聴器技能者が在籍する補聴器販売店での購入をおススメします。
イヤホン | 補聴器 | |
---|---|---|
カテゴリ | 音響機器 | 管理医療機器 |
目的 | 音楽・動画などを楽しむ | 難聴者の“聞こえ”のサポート |
購入手順 | 個人の好みで購入 | 耳鼻咽喉科で補聴器の適応の診断を受けてからが望ましい |
補聴支援機能 | 汎用化されたプログラム内での調整 | 一人ひとりの聴力・目的・使用環境などに応じて調整・サポート |
イヤホンは補聴器代わりになる?
補聴器は個人の聴力の程度や使用する環境に合わせた調整や、耳の状態なども考慮して補聴器の形状(耳かけ型や耳あな型)やサイズを決めていきます。実際に生活する環境で言葉を聞き取りやすくするための調整なども実際に使用してみて、調整を重ねながら個人に合った“聞こえ”の状態をつくっていきます。
イヤホンの補聴支援機能はあくまでも一般的な“聞こえ”を補正する機能であり、汎用化されたプログラムに沿った調整のため、個人の難聴の症状に合わせた細かな調整やライフスタイルに合わせた設定を行うことはできません。また、大音量で長時間連続して聞き続けると、音を伝える有毛細胞が壊れて難聴になるリスクがあります。適宜、耳を休ませて予防対策をとりましょう。
イヤホンは補聴器を必要とする難聴者の“聞こえ”を支援する目的でつくられたものではないので、補聴器としては代用できません。生活に不便を感じる“聞こえ”の症状が出てきたら、まずは補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科へ相談しましょう。
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記事投稿者
丹野 愛
フリーライター。医療・介護系のサイトコンテンツやコラムなどを執筆。作業療法士。福祉住環境コーディネーター2級。認知症ライフパートナー2級。
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記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■