今回ご紹介するのは難聴者が活用できる福祉制度です。身体障害者手帳は主に高度・重度を対象としている一方、軽度、中等度を対象とした独自の支援をおこなう自治体もあります。「この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する(後略)」――これは障害者基本法1条からの引用です。私たち一人一人がお互いを尊重するという理念が形となった福祉制度が、必要な人々に届くことは重要です。
聞こえに悩む方の生活を助けるために、さまざまな公的な支援制度があることをご存知でしょうか。具体的にどのような支援があり、どうすれば利用できるのでしょうか。聞こえの福祉に詳しい馬屋原邦博先生に伺いました。
馬屋原邦博(うまやはら・くにひろ)先生
大阪河﨑リハビリテーション大学准教授。言語聴覚学専攻。言語聴覚士。東京都心身障害者福祉センターを経て現職。平均聴力レベルと言葉の聞き取り
~障害者手帳の2つの基準~
――聞こえない、あるいは聞こえにくさに悩む方のために、どのような支援制度があるのでしょうか。
馬屋原 日本では障害の有無にかかわらず暮らしやすい社会を目指して、さまざまな支援制度が設けられています。代表的な制度の一つが、障害者手帳です。障害があると認められた方に対して都道府県知事が交付するもので、認定基準を満たす難聴の方は身体障害者手帳が受けられます。身体障害者手帳があれば、等級に応じて所得税や住民税の控除、公共料金の割引などが受けられるほか、補装具費支給制度による補聴器の購入修理費用の支給や手話通訳者・要約筆記者の派遣サービス、日常生活用具の給付なども利用できます。(※詳細は該当する住居地の自治体窓口の情報サイトなどご自身でご確認ください。)
――身体障害者手帳の交付を受けるための条件はありますか。
馬屋原 聴力が基準以上であれば、聴覚障害と認定され、身体障害者手帳を取得できます。ここでいう聴力とは、「平均聴力レベル」か「言葉の聞き取り(語音明瞭度)」という二つの基準で測ります。具体的には、平均聴力レベルが両耳とも70dB以上、もしくは片耳が90dB以上でもう片方の耳が50dB以上の方が、手帳の交付対象になります。日本では聴力が70〜90dBを高度難聴、90dB以上を重度難聴と区分していますので、主に高度・重度難聴の方向けの支援ですね。また、音が聞こえていても言葉が聞き取れない方も、語音明瞭度が50%以下の場合は身体障害者と認定されます。
――自分の聴力を調べるには、かかりつけの耳鼻科を受診すればいいのでしょうか。
馬屋原 身体障害者手帳の交付を受ける際には、法律で定められた指定医の診断書が必要となります。かかりつけ医では対応できない場合もありますので、手帳取得をお考えの場合は、まずはじめに居住地の自治体の担当窓口にご相談ください。
購入費用が1割負担となる
~補装具費支給制度~
※所得制限もございますので詳細は自治体にお問合せください。
――身体障害者手帳を持っていると、補聴器を購入する際にどれくらいの金額が補助されるのですか。
馬屋原 厚生労働省が毎年、購入基準額を告示しています。原則として基準額の9割が公費負担、1割が自己負担となります。例えば令和3年度の基準額をみると、高度難聴用耳かけ型補聴器は4万3900円となっていますが、これに必要な付属品なども含めて価格が計算されて、全体の1割が本人負担となります。ただし、所得によって負担上限額が変わることもあります。「安価な製品はよくないものではないか」と心配される方もいますが、各メーカーともに高度難聴、重度難聴に対応した優れた製品を作っています。安心してご購入いただければと思います。
――購入する補聴器は、自由に選べるのでしょうか。
馬屋原 指定医師の「意見書」をもとに、市区町村が必要と認めた製品のみが購入対象となります。好きな補聴器を自由に購入できるわけではありません。特別な事情がなければ、ポケット型か耳かけ型の補聴器が選定されます。それらを使えない事情がある方にのみ耳あな型や骨導型補聴器の利用が認められます。例えば、中耳炎で耳だれが出ていて耳にイヤモールドがはめられない場合には骨導型補聴器が利用できる、といった具合です。
――やはり、医師の診断をうけるというのが重要になるのですね。
自治体によって、軽度や中等度の難聴者向けの支援もある
――軽度・中等度難聴の方は身体障害者手帳の枠組みから外れてしまいます。ほかにも利用できる支援があるのでしょうか。
馬屋原 都道府県や市区町村などの自治体単位で、独自の軽度・中等度の難聴の方向けの支援制度を設ける動きが広まっています。まだ一部の自治体に限られますが、例えば身体障害者手帳の交付対象とならない18歳未満の軽度・中等度難聴の子どもに対して、補聴器の購入費用の一部を助成している自治体があります。子どもの発達において聞こえは重要な役割を果たしており、こうした支援は非常に意味があるものです。また、身体障害者手帳を持っていない高齢者の方向けに補聴器購入費用の一部を助成する市区町村もあります。いずれも自治体独自の取り組みで、どの程度の聴力レベルが支援対象になるのか、いくら助成するのかといった点は自治体ごとに異なります。
――聞こえにお悩みの方は、どこに相談に行けば良いのでしょうか。
馬屋原 福祉については、まずはお住まいの市区町村の福祉課などにご相談ください。市区町村の窓口なら、身体障害者手帳制度の詳しい説明や、お住まいの地域の指定医など、必要な情報を教えてもらえます。また、軽度・中等度難聴の方向けの支援メニューがあるかどうかもわかります。また、都道府県や政令市には聴覚障害者情報提供施設がおかれています。こうした施設で情報をもらえたり、相談が受けられる場合もあります。
――聞こえに悩んでいる方が、障害の程度にかかわらず、お悩みに適した支援が受けられるといいですね。
馬屋原 そうですね。これからは障害の種別や程度によらず、社会全体で必要な配慮や支援をしていくことが理想です。障害者総合支援法は、障害者基本法の理念に基づいて、それまでバラバラだった身体、知的、精神、難病などの垣根を無くして、一人一人の障害の特性に配慮した支援を目指しています。
――障害者基本法の理念を実現していくためにも、障害者手帳制度の拡充や、自治体による支援制度の広がりにも期待したいと思います。本日はありがとうございました。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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