私たちの多くは、現代社会を生きるために強いストレスと闘っています。ストレスは自己防衛本能というべき動物としてのメカニズムですが、それは多くの健康問題につながっています。慢性的なストレスによる身体的変化は、長期的には、難聴さえ引き起こす可能性があります。ストレスと難聴の関係について見ていきましょう。
そもそもストレスの本質とは、どのようなものなのでしょうか?
信じられないことかもしれませんが、ストレスは私たちの生活において大切なものです。実際、人類を含むどの種の生存も、それが環境ストレスにおける要因にどのように反応するかに大きく左右されると言えるかもしれません。
わかりやすくいうと、人が持つ本能として闘争・逃走反応(戦うか逃げるか反応)がよく知られていますが、この生命の危険を及ぼす可能性のある場面で、逃げるべきか自己防衛を行うべきか、そのとっさの判断のためにストレス反応によってアドレナリンが分泌されます。
しかし、このストレスは、私たちの身体が日常的にそれを感じ始めると不健康な存在になります。仕事、育児、お金の問題などについて常に心配しつづけていたり、また社会的な問題がいくつも重なり合ったりといったことが慢性的なストレスにつながることがあります。そしてこのようなストレスは、身体にとっては負担となります。
アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH:National Institute of Mental Health)の調査によると、長期的なストレスは私たちの健康にマイナスの影響を与えることがわかっています。急性ストレスを感じると、アドレナリンの分泌量が高まり呼吸がいつもより早くなります、これはより素早く行動がとれるように筋肉へ酸素の供給を振り分けるためです。
長期的には、このホルモンは免疫、消化、睡眠および生殖器系といった体の器官の働きを抑制します。絶えずストレスを感じ続ける状況が続くと、急性または外傷性からのストレス反応のように身体が普通の状態に戻るための明確な信号を受け取ることができなくなります。このことは心臓病、高血圧、糖尿病またその他の深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
慢性的なストレスは、どのように難聴を引き起こすのでしょうか
心臓病、糖尿病、さらには喫煙など、身体の循環機能の抑制につながるものはいずれも聴覚にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。これは主に、耳の奥の内耳にある小さな感覚器センサーである有毛細胞が果たす繊細な働き、すなわち外耳で集めたノイズを、脳がその音の持つ意味を解釈できるよう電気信号に変換する働きは,血液の循環が良いことと非常に関わっています。
具体的にいいますと、これらの内耳の感覚器センサーである有毛細胞一つ一つが特定の周波数について電気信号への変換を担当しているため、それらが損傷したり死んだりすると、その有毛細胞が担当していた周波数の信号を送る機能も影響を受けます。これらの感覚有毛細胞が損傷を受けた結果として起こる難聴は、感音難聴として知られています。
また循環不良は、鼓動性の耳鳴りを引き起こす可能も指摘されています。これは一般に、鼓動や拍動のように、または心臓の鼓動に合わせて一定のリズムで脈打つタイプの耳の異音として説明されています。拍動性耳鳴の根本的な原因には高血圧があるとされますが、これはしばしばストレスによって引き起こされるとされています。
どのように対処すべきでしょうか
ほとんどの場合、感音難聴はいったん障害されると元の聞こえの状態に戻ることはないとされていますので、日常でのストレスを減らすことは、循環機能の低下がもたらす聞こえの問題からご自身を守ることにつながります。
- 休憩をとる:例えば20分といった短い時間でもストレスの原因から離れることは、ものの見方を変えて、ストレスに圧倒される状況を少し減らすことができます。
- 適度な運動:毎日20分運動するように心がけることは、体と心の両方に健康上のメリットを与えます。
- 笑顔と笑うこと:顔の表情筋を動かし笑顔になること、特に緊張が緩和され これに呼応して脳にも“幸せな”信号が送られます。
- ソーシャルサポート(社会的支援)を受ける:ご自分が経験している状況を理解し、前向きなフィードバックを提供できる専門家などに相談しましょう。
- 瞑想する:運動と同様に、瞑想は心と体のリラックスと集中とを助けます。
耳鼻科の専門医を受診しましょう
今ストレスを感じている、特にそういったことはないに関わらず、以前と同じようには聞こえていないと感じることがあれば、どうぞ耳鼻科の専門医を受診ください。耳鼻科では、皆様がどんな心配をお持ちであるかとともに、耳の健康状態や病歴などについて質問します。皆様一人ひとりの聞こえに関する履歴をすべて把握した後に、難聴といった問題があるかどうかを調べるために聴力検査を行います。これは安全で痛みを感じるようなことはありません。これまでの聞こえの健康履歴と聴力検査の結果に基づいて、あなたのライフスタイルや聞こえに対する期待に合わせた聴覚の治療計画を一緒に立ててくれるでしょう。
また難聴があることが分かり、耳鼻科医において補聴器の装用を勧められた場合には当サイトにおいてお近くの補聴器専門店をご紹介することも可能です。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2018年4月17日の記事「How high stress can lead to hearing loss」(US Healthy Hearing スタッフライター Debby Chang寄稿)
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
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記事監修者
白石 君男先生
九州大学 名誉教授、福岡大学医学部 客員教授、一般財団法人曽田豊二記念財団 代表理事、医療法人永聖会 松田病院 言語聴覚士。■詳しいプロフィールを見る■