両方の耳で音を聞くことで、方向や距離感をはじめとした音環境を人は認識しています。そのため片耳が聞こえないと聴力にさまざまな影響があります。片耳難聴に特有の問題と、聞こえの改善のための選択肢についてご紹介します。
難聴のほとんどは、両耳難聴ですが、片方の耳だけが聞こえなくなる人もいます。生まれつき片耳難聴のこともあれば、後天的に発生することもあります。
難聴の程度に応じて、一側性難聴または一側ろうとして知られています。一般に、難聴の程度が重度またはそれに近い場合に、"一側ろう(SSD)" と呼ばれます。
難聴は徐々に起こることもあれば、突然起こることもあります。突然発生した場合は、早急な治療が必要であり、医療上の緊急事態と考えるべきです。これを突発性難聴といいます (後述参照) 。
ここまで見てきたように、片耳が聞こえないと、聴力に多大な影響を及ぼします。
耳が二つあることには理由があるのです。両耳で音を聞くことによって、脳は音の位置を特定し、音質や聴取範囲を改善することができるからです。
もう一度、以下に片耳難聴に特有の問題点をまとめます。
- 音が来る方向の特定が困難になる。
- 騒がしい環境での聞き取りや、特定の人物の声に集中することが困難になる。
- 音量感を捉えにくくなる。
- 片耳で聞くことの負担により、認知的負荷および疲労感が増大し、複数の作業を一度にこなすこと(マルチタスク)が困難になる
一側ろうにおける頭部遮蔽効果
一側ろうの場合は、 往々にして頭部遮蔽効果を経験することになるでしょう。音の伝播のしくみとして高周波の音が頭部で遮られることは上述の通りですが、そうなると、良聴耳で高周波の音が聞こえないということが起こり得ます。
米国クリーブランドクリニックのオーディオロジストであるサラ・シドロウスキー氏は、「頭は盾となり、聴力の良いほうの耳に音が届くのを阻みます」と説明しています。
その結果、"s"や"f"のような高周波の子音が聞き取れないため、音声がこもったように聞こえることがあります。
片耳難聴の原因
片耳難聴にはさまざまな原因が考えられますが、以下はその数例です。
- メニエール病
- 聴神経腫瘍
- ウイルス性または細菌性感染症
- 耳への物理的損傷
- 頭部外傷
- 循環器疾患
- 遺伝性疾患
また、原因が特定できない場合や、複数の要因が重なっている場合もあります。
片耳の突発性難聴
片方の耳に急速に難聴が進行することがあります。程度の軽重にかかわらず、自身や家族が突発性難聴を来した場合は、出来るだけ早く対処することが大切です。難聴が進行すると、「複聴現象(一つの高さの音に対し、異った高さの音が2つ以上聞こえる現象)」と呼ばれる、聞こえの異常を来すことがあります。
難聴発生時の対処が早ければ早いほど、聴力が完全に回復する可能性が高くなります。治療で聴力が回復しない場合は、約15%の確率で片側性難聴が起こります。
片側性難聴の治療における選択肢
軽度から中等度の難聴の場合は、補聴器が第一の選択肢となります。
高度から重度の一側性難聴(もしくは一側ろう)の場合は、聴力が回復する可能性は極めて低いものの、聞こえやすいほうの耳(良聴耳)に装用する機器によって、聞こえを改善できることもあります。聴覚ケアの専門家による聴力検査や問診によって、難聴の原因を精査します。その結果によって、CROS、BiCROS、または埋め込み型骨導補聴器が選択肢となる可能性があります。
コントララテラル・ルーティング・オブ・シグナル(CROS)
CROS補聴器は、片方の耳はほぼ聞こえず、もう片方の耳は正常な聴力を持つ方向けに設計されています。送信機は、難聴側の音を、良聴耳の受信用補聴器へ送ります。したがって、左右の耳にそれぞれ装置を装着する必要があります。良聴耳では聴力は正常であるため、受信用補聴器が良聴耳側の音を増幅することはありません。
BiCROS(読み方:バイクロス)の補聴器も同じように機能しますが、良聴耳に難聴がある方向けに設計されている点がCROSとは異なります。つまり、受信用補聴器は、反対側の送信機から音を受信するだけでなく、良聴耳側の音も補聴器を介して増幅します。複数のメーカーがCROSとBiCROSの補聴器を取り扱っています。
クリーブランドクリニック聴覚インプラントプログラムのエリカ・ウッドソン医師は、CROSやBiCROSは音の経路を変えることはできても、聴力を回復するものではないことを理解することが重要であると、患者とのオンライン診療において説明しています。ウッドソン医師は、「音が聞こえるのは片耳からで、両耳からは聞こえません。周囲360度からの音の認識を向上させるための装置でそれがメリットになりますが、音が来る方向を特定することはできません。」と述べています。
埋め込み型骨導補聴器
CROS補聴器が有効ではない人には、別の方法として、埋め込み型骨導補聴器という選択肢がありますが、こちらは外科手術が必要になります。埋め込み型骨導補聴器は、骨固定型聴覚インプラントとしても知られており、頭蓋骨を介して音の振動を直接内耳へ届ける骨伝導を利用しています。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2022年2月15日の記事「Hearing loss in one ear」(Joy Victory 寄稿)
https://www.healthyhearing.com/report/52008-Living-in-the-head-shadow-of-single-sided-deafness
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■