左右いずれかの耳が聞こえにくくなる「片耳難聴」の症状。もう一方の耳が問題なく聞こえる場合は、一見すると日常生活への支障が少ないように見えますが、実は困りごとが少なくありません。周囲に片耳難聴者がいる方は、本人の聞こえに配慮できると理想的です。 ここでは、片耳難聴の症状や原因、治療法などの基礎知識をお伝えします。また、周囲の配慮の仕方にも触れるため、本人だけでなく身の回りの方も参考にしてみてください。
片耳難聴の基礎知識
左耳または右耳、いずれか一方の聞こえに影響が生じる「片耳難聴」。なかには日常生活にほとんど支障がないケースもありますが、聴覚障害の一種です。ここでは、そんな片耳難聴の特徴や主な原因など、基本の情報をご紹介します。
片耳難聴とは?
片耳難聴とは、片側の耳が聞こえづらい、もしくは聞こえない状態のことです。「一側性難聴」とも呼ばれます。突発性難聴の場合は、発症に前触れがなく、ある日突然に片耳が聞こえにくくなることも。片側の聞こえに影響が生じても、もう片方の耳は問題なく聞こえるため、ほとんど支障なく日常生活を送れる方も多くいらっしゃいます。難聴でないほうの耳の聴力レベルが健常であれば、身体障害者手帳は交付されません。ただし、片方の耳の聴力レベルが90dB以上、もう一方の耳が50dB以上の場合は、身体障害者障害程度等級6級に認定されます。
片耳難聴の主な原因
おたふくかぜ
おたふくかぜの合併症で片耳難聴になることを「ムンプス難聴」と呼びます。ムンプス難聴に対する有効な治療法はありません。子供がおたふくかぜにかからないよう、発症前に任意でワクチン接種を行うことは可能です。
ストレス
突発性難聴は、日頃のストレスが引き金となって起こると考えられています。ストレスを工夫して解消し、睡眠不足を防ぐなど、心身の健康に配慮することが大切です。
音響外傷
大音量の騒音にさらされて起こる難聴は、音響外傷(音響性難聴)あるいは騒音性難聴と呼ばれます。
中耳炎
中耳炎など、中耳の病気で片耳難聴となることがあります。伝音難聴の原因となる中耳炎には「急性中耳炎」や「慢性中耳炎」のほか、中耳に滲出液が溜まる「滲出性中耳炎」などが挙げられます。
メニエール病
メニエール病は、回転性のめまい・耳鳴り・耳閉感などの症状が代表的な病気です。一般的に、発症後数年で落ち着くものから、経年的に難聴が進行するものまで、色々なバリエーションがあります。
耳垢栓塞
耳垢が詰まって外耳道を塞ぐことで、伝音難聴の原因となることがあります。自分で耳垢を取り出そうとすると奥へ押し込む危険性があるため、耳鼻咽喉科の医療機関を受診して、専門家に除去してもらいましょう。
片耳難聴の主な症状
片耳難聴で片側の聴覚に問題があると、会話をはじめ日常生活で不便を感じたり、聞こえに違和感が生じたりする場面が少なくありません。ここでは、片耳難聴の主な症状についてご紹介します。
難聴のほうの耳の側から話しかけられても気づかないことがある
片耳難聴であることを周囲に認知されていないと、トラブルに発展するおそれがあります。聞こえの問題から、話しかけられても無反応でいると、話しかけた方から「無視された」と受け取られかねません。このような事情から、幼少期からコミュニケーションの悩みを抱える患者さんが多い傾向にあります。
雑踏などで人の声が聞き取りづらい
片耳難聴があると、雑音が多い場所で人の声が聞き取りにくい傾向にあります。人通りの多い街中やパーティー会場、カフェなどのにぎやかな場所では、相手の話がはっきりと聞き取れずに困ってしまうことも。また、複数人での会話を苦手とする方も少なくありません。
音が聞こえてくる方向がわかりにくい
人間の耳は、左右の耳から聞こえる音の違いによって、音の方向を判断しています。そのため、片側の耳の聞こえに問題があると、音の方向がわかりにくくなるのです。片耳難聴の方は、道路を走る車や自転車の音で方向を把握しにくい点など、日常生活で注意する必要があります。
片耳難聴の主な治療・対処方法
片耳難聴は、周囲の方から症状に気づかれにくいため、場合によっては誤解されたり十分なサポートを得られなかったりすることも。最後に、主な治療法や、日常生活での対処方法について解説します。
難聴者本人が取る治療・対処方法
なるべく早く耳鼻科を受診する
難聴の症状が見られたら、1~2週間以内に耳鼻咽喉科の医療機関を受診するのが望ましいでしょう。早期に対処すると、難聴のタイプによっては治療により改善や軽快が見込める確率が高まります。
補聴器を利用する
耳鼻咽喉科の医師の診察を受けたうえで、必要に応じて補聴器を利用する方法があります。補聴器を装用する際は、聞こえの状態に合わせて、フィッティングによる調整が必要です。なお、補聴器の効果は聞こえの状態によって異なる点に留意しましょう。
片耳難聴であることを示すマークを身に着けておく
公共の場などでは、片耳難聴であることを示すマークを身に着けておくと便利です。一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会では、聴覚障害を示す「耳マーク」のグッズが販売されています。また、個人のデザイナーが作成したバッジやキーホルダーを活用しても良いでしょう。
難聴者の周りの人が行うべき配慮の仕方
正面や聞こえるほうの耳から話しかける
難聴者から見える正面の位置で呼びかけると、本人に気づいてもらいやすくなります。話しかけるとき本人の名前を呼ぶなど、注意を促しやすい言葉を使うと、より効果的です。また、難聴者と周りの方がコミュニケーションを取りやすいよう、職場や飲食店では席の位置に配慮すると良いでしょう。
肩を叩くなどの合図を行って話しかける
難聴者が声がけに気づかないときは、肩を叩いたり手を振ったりと、合図してから話しかけると伝わりやすくなります。背後からの声がけには特に気づきにくいため、注意しましょう。本人がこちらへ注意を向けてから会話を始めるよう心がけてください。
周囲の騒音を抑える
難聴者が会話しやすいように、周囲の騒音を抑える工夫をしておくと安心です。静かな場所へ移動したり、テレビを消したりして、相手の話を聞き取りやすい環境を整えましょう。騒音が多い場所で会話をする際は、聞こえやすいようにはっきりと発音をするのがポイントです。
片耳難聴の当事者への理解を深め、配慮を心がけましょう
今回は、片耳難聴の基礎知識や、本人や周囲の方ができる対処方法についてお伝えしました。片耳難聴は、難聴でないほうの耳の聴力に問題がなければ、身体障害者手帳が交付されません。しかし、片耳の聞こえが悪いことで、日常生活で多くの困りごとを経験することも。こうした当事者への理解を深めて、身の回りの方にできる配慮を心がけましょう。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■