片耳または両耳の痛みは医学的には 「耳痛」 として知られており、不快なものです。耳の痛みは一過性のものもあれば長く続くものもあり、様々な理由で起こりうるため治療方針は様々です。この記事では、耳の痛みを感じる最も一般的な原因をいくつか紹介するとともに、なぜ子どもが耳の感染症にかかりやすいのか、治療法の選択肢などについても詳しく解説します。
耳の痛みの考えられる原因
耳の痛みは様々な原因が考えられます。はじめに、医師は考えられる原因を2つに分けており、これが参考になります。
- 耳自体の病気などによる痛み
- 耳以外の病気などによる痛み(身体の他の病気などに関連して起こる痛み)
「耳の内部に原因がある場合は、耳の検査で異常が検出され、耳の中の鼓膜や中耳に何か疾患が疑われるときに行われる検査であるティンパノメトリーでも鼓膜の腫れが確認されるなど、明らかな疾患が示されます。従って、耳の関連痛には当てはまりません」とヒューストン耳鼻咽喉科・アレルギークリニック(米国)の耳鼻咽喉科専門医ニコルス医師は述べています。
耳自体の病気などによる痛み
1.スイマーズ・イヤー
医学的には外耳炎として知られるスイマーズ・イヤーは、 「外耳道の組織の感染症である」とニコルス医師は述べています。耳の穴を押さえると圧痛を感じます。
ジョージア州ピードモント耳・鼻・咽喉・関連アレルギー病院(米国)の耳鼻咽喉科医のホフマン医師は、スイマーズ・イヤーの症状として、痛み、腫れ、耳垂れ(耳漏)などがあると述べており、耳がかゆいこともあります。
「スイマーズ・イヤーの治療には一般的には抗生物質を含む点耳薬が医師から処方されます」とニコルス医師は述べています。また、耳を乾燥した状態に保つことも重要だと付け加えています。感染して痛みがある場合は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの市販の鎮痛剤を服用します。
2.中耳炎
ニコルス医師によると「中耳炎は、耳の痛みのもう一つの主な原因であり、これは呼吸器感染症、風邪、または副鼻腔感染症の後に起こる可能性があります」と述べています。
子どもの75%が3歳までに中耳炎にかかると言われており、大人も中耳炎にかかることがありますが、それほど一般的ではありません。(アメリカ国立医学図書館による)
中耳炎によって、難聴や耳だれ(耳漏)に加えて痛みを引き起こすことがあり、子どもの場合は他にも、むずむず、食欲不振、発熱、睡眠障害などの症状がみられます。
中耳炎の治療について:
米国家庭医学会によると、中耳炎の治療において、小児科医が必ずしも最初から抗生物質を処方するわけではありません。医師は抗生物質を処方する前に、数日間市販の鎮痛剤や点耳薬で子供の感染症を治療することを選択する場合があります。日本においても中耳炎の際、経過や程度に応じ、すぐに抗生物質を処方することは減ってきています。
3.耳管機能障害
「耳管は鼓室(鼓膜の奥のスペース[中耳])と鼻の奥(上咽頭)をつないでおり、鼓室の圧調整や換気を行っている」とホフマン医師は述べます。アレルギーによる腫れなど、耳管に炎症や異常が起こると、痛みが生じることがあります。
「風邪をひいたときや副鼻腔炎にかかったときなど、著しい腫れがある場合や、ひどいアレルギーがある場合は、耳管の内壁の炎症を引き起こします」 とホフマン医師は述べます。その結果、圧力を調整できず、痛みを伴うことがあります。
耳管機能障害の治療について:
耳管機能障害にはいくつかの種類があり、それに応じて治療法も異なります。場合によっては、あくびをしたり食べ物を噛んだりするなど、圧外傷 (後述)と同じ治療法で症状が緩和されることもあります。その他のケースでは、投薬や手術が必要となる場合があります。(クリーブランドクリニック[米国]による)
4.圧外傷
耳がひどく詰まったように感じるなら、圧外傷かもしれません。鼓膜の内側と外側の圧力が一致しない場合に起こる可能性があります。飛行機の離着陸の際や、スキューバダイビングの潜水中など、急激な気圧の変化が生じることに関連しています。(マウントサイナイ病院[米国]による)
また、風邪やアレルギーになったときにも、詰まったように感じることがあります。
圧外傷を軽減する方法について:
「風邪やアレルギーによって耳が詰まった感じがしている場合は、充血除去薬を試してみてください。飛行機に乗っているときに必ず起こるのであれば、あらかじめ市販の血管収縮剤の入った点鼻薬を服用してみるとよいです」、とホフマン医師は述べています。他の簡単な方法としては、チューインガムやあくびなどがあります。
最も重要なこと:
飛行機が着陸するときは寝ないことです。ホフマン医師は、 「飛行機が降下していくにつれて、気圧が高まってきます」 と述べています。そのため、飛行機が着陸するときには起きて、あくびをし、ガムを噛むなどの対応をしておくとよいでしょう。
メニエール病も耳閉感を引き起こし、難聴、耳鳴り、めまいを伴うことに注意する必要があります。耳のつまり感(耳閉感)を引き起こすいくつかの症状の1つです。
5.外傷性鼓膜穿孔
場合によっては、耳の感染症や圧外傷によって鼓膜が破れることもあります。非常に大きな騒音や耳の損傷も鼓膜を穿孔する可能性があります。最も一般的な原因の一つは、耳垢を取り除こうとして、耳の奥まで綿棒を入れることです(英国の国民保健サービスによる)。
鼓膜に穴が開くと、耳の痛みとともに、難聴、耳鳴り、めまい、ときに吐き気などが起こります。通常、損傷した鼓膜は問題なく治癒します。
6.何かが耳に詰まった
虫、電池、ビーズ、補聴器の部品、綿棒などが耳の中に入り込み、耳の痛みを引き起こすことがあります。
耳以外の病気などによる痛み(身体の他の病気などに関連して起こる痛み)
顎関節機能障害 (顎関節痛)
「口を開けたり閉じたりしながら耳の前で押すと、顎関節を感じることができます」とニコルス医師は述べます。歯ぎしりのある人には圧痛が出ることがあります。
これは、耳以外の病気などによる痛みの一例です。この痛みは耳の問題ではなく、他に原因があるものです。「顎の関節に炎症があると、顎を動かす筋肉は耳管にもつながっているので、耳がふさがったり耳が痛んだりすることがありますが、実際には耳以外に原因があります。」とホフマン医師は述べています。
「顎関節症の治療法の一つは、柔らかい食事をさせることで、あまり噛まなくても済むようにすることです。他の治療法としては、非ステロイド性抗炎症薬の服用、顎を温める、顎関節のマッサージなどがあります」とニコルス医師は述べています。
炎症と関節炎
「頸椎に問題があったり、神経が圧迫されたりしていると、耳の痛みにつながる可能性があります」とニコルス医師は述べています。考えられる別の理由として、扁桃摘出術が挙げられます。「これは喉の奥から耳にかけて伸びる神経からの関連痛に加えて、手術後の炎症によるものです」とホフマン医師と述べています。
「つまり、私たちが耳に感じる痛みの一部は、実際には他の部位の神経の炎症によるものです」 とホフマン医師は述べています。
その他の一般的な二次的な痛み(関連痛)
耳の痛みのその他の一般的な原因には以下のものがあります。
- 耳にものが詰まる
- 内耳炎
- 喉の痛みと副鼻腔感染症
- 歯の問題
- GERDまたは胃酸の逆流
- 頭痛と片頭痛
(クリーブランドクリニックによる)
耳痛はなぜ子どもに多いのでしょう?
「子どもが耳の感染症を繰り返すことで耳に問題を抱えたり、一部の耳管機能不全を起こしたりする理由の一部は、耳管がまだ十分に発達していないためです」 とホフマン医師は述べています。
子どもの場合、耳管の角度によって、上気道感染後に耳の感染症を発症し、中耳腔に液体がたまる可能性が高くなるといいます。
幸いなことに、子どもは成長につれて耳管の角度が変化することで、この可能性が低くなっていきます。
子どもが耳の感染症にかかりやすいのには、もうひとつ重要な理由があります。免疫力がまだ発達途上であり、感染症を予防する体制が整っていないのです。
補聴器が耳を傷つけることはない
正しく装着されていれば、補聴器は快適で、耳を傷つけたり、耳が痛くなったりすることはないはずです。補聴器の痛みや刺激を感じている場合は、購入された補聴器専門店や補聴器外来を受診された耳鼻科へ相談してください。
耳の痛みはいつ医者に診てもらうべきですか?
さまざまな場合があります。
「耳の痛みは非常によくみられます」 とホフマン医師は指摘します。また、飛行機に乗っているときの圧外傷のように、比較的短時間で起こるものもあります。
耳鼻咽喉科の診察を受けるべき徴候には、めまい、発熱、難聴、耳垂れ(耳漏)、持続する痛みなどがあります。
「発生頻度が非常に低く、重症ではなく、あまり長く続かないものであれば、おそらく心配する必要はありません。」とホフマン医師は述べています。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2022年9月12日の記事「Why does my ear hurt?」(Madeleine Burry 寄稿)
https://www.healthyhearing.com/report/53379-Why-ear-pain-ears-hurt-causes-otalgia
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■