年齢を重ねると聞こえの機能は低下し、難聴になる人が増えてきます。難聴は対処しないまま放っておくとさまざまなリスクが高まるため、聞こえにくさを感じたり、ご家族などから聞こえについての指摘を受けた場合には、早めに受診することをおススメします。本記事では加齢に伴う聞こえの低下、難聴の基準が変更になった世界の流れ、難聴の予防法などについて解説します。耳のケアにお役立てください。
加齢に伴って聴力は衰える
加齢に伴い聴力は老化現象の一つとして衰えていきます。加齢以外に特別な原因のない難聴のことを「加齢性難聴」といいます。
年を重ねると難聴になる理由としては、耳の中にある聞こえを感知する細胞の数が減ったり、変化したりすることなどが指摘されています。
日常に支障がないため気づかない方が大半ですが、実は加齢性難聴は40代から始まる人もいるのです。年とともに聞こえがさらに低下していくことで自覚する人が増え、75歳以上の方では約半数が難聴に悩んでいるとも言われています。
10代から90代までの聴力検査結果を集計したThe Lancetの論文のグラフを見ると、年齢とともに聞こえが低下する様子がよくわかります。
出典:Patterns of hearing changes in women and men from denarians to nonagenarians, The Lancet Regional Health – Western Pacific 縦軸が聴覚レベル、上に行くほどよく聞こえる。横軸が周波数、右に行くほど高い音
尚、通常難聴にはさまざまな原因、症状がありますが、加齢性難聴には以下の共通した特徴があります。
- 小さな音が聞こえにくくなる
- 高い音から聞きにくくなり、子音の聞き誤りが増える
- 音がひずんで聞こえて、大きな声で言われても聞き取りにくい
「昔は聞こえた体温計の音や電子レンジの終わりの音が聞こえなくなった」などは、高い音が聞こえにくくなったサインの一つです。
難聴を放っておくとさまざまなリスクが生じる
ここまで読むと「年を取ると難聴になる人が多いのはわかったけれど、みんながなるなら放っておいていいの?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論として、難聴を放っておくのはおすすめできません。なぜなら難聴になると、以下のようなさまざまなリスクが生じるからです。
- 認知症
- 危険察知能力の低下
- 人との会話など、社会生活への影響
- 家族友人とのコミュニケ-ション困難
- 自信の喪失
- 鬱状態
詳細はこちらの記事をご覧ください。
聴力低下の原因と治療・対処方法|放置すると生じやすいリスクとは?
難聴による悪影響を最小限にするためにも、もし聞こえが気になったら、まずは耳鼻科を受診して適切な対処方法を仰ぐことが大切です。
難聴の有無や、加齢性難聴であるかどうかは診察を受けないとわかりません。受診することで、治療ができる難聴の場合は早めの治療につながり、治療ができない場合でも、難聴の程度や生活での困り具合などを考慮して、補聴器などを検討することができます。
WHOでは難聴の基準値が変更に
難聴の影響が明らかになるにつれて、WHOでは難聴の基準が引き下げられました。つまり、以前は問題ないとされてきた軽い聞こえの低下でも、難聴と判断されるようになったのです。
具体的に言うと、以前は左右どちらかの耳の会話音域の聴力が25dB以内なら「難聴無し」とされてきました。しかし、2021年に出された「WORLD REPORT ON HEARING」では、聴力が20dB以上で「軽度難聴」と扱われ、難聴対策の対象であると宣言されたのです。
これは、何も対策をしない難聴が引き起こすさまざまな悪影響を最小限に抑えるための変更とも考えられています。
尚、加齢性難聴はゆっくり進行することが多く、気づかない方も多くいらっしゃいます。定期的に健康診断の聴力検査を受ける他、常日頃ご自身の聞こえに関して気にかけておけるとよいでしょう。
また、健康診断の聴力検査は簡易的な検査であり、多くの場合、先ほどのWHOの基準値よりは緩めの基準となっています。そのため、健康診断で問題を指摘されなくても、気になる症状がある場合には耳鼻科を受診して精密な聴力検査を受けることが大切です。
当サイトの上部には、「かんたん聞こえチェック」があります。このようなものを活用して聞こえについて気にかけておけると良いでしょう。
難聴になってからの対処だけではなく予防も大切
聞こえの低下は誰にでも起こり得る症状ですが、難聴になりやすい生活を避けることが聞こえのためには大切です。長い目で見れば聞こえの維持に役立つものもあるため、無理のない範囲で考慮されることをおすすめします。
難聴の予防にすすめられていることは以下の通りです。
出典:「難聴について」, 日本耳鼻咽頭科学会
- 大音量でテレビを見たり音楽を聞いたりしない
- 騒音など、大きな音が常時出ている場所を避ける
- 騒音化で仕事をしている人は耳栓をする
- 静かな場所で耳を休ませる時間を作る
- 生活習慣病の管理
- 栄養バランスがとれた食事
- 適度な運動
- 規則正しい睡眠
- 禁煙
また、この他にも最近ではヘッドホン(イヤホン)による難聴のリスクが問題となっています。ヘッドホンを使用する場合には短時間に、小さい音で、ノイズキャンセリング機能を利用するなども有効です。
イヤホンで難聴にならないために。電車などうるさいところでは特に注意!
難聴かもと思ったら耳鼻科を受診しましょう
加齢に伴い聞こえは低下する傾向があります。とはいえ、「年だから仕方がない」と放っておくとさまざまなリスクが上がることが指摘されてきています。
聞こえが気になったらご自身で判断するのではなく、まずは耳鼻科を受診して医師の診断を受けることが大切です。それが早期治療、早期対処につながります。また、難聴予防に効果的なことを知り、少しずつ生活でも意識していけるとよいでしょう。
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記事投稿者
言語聴覚士ライター大井純子
言語聴覚士として病院・訪問でのリハビリに約20年間従事。 「コトバの力で誰かをサポートする」をモットーに、言語聴覚士として働くかたわら、医療記事作成や電子書籍出版サポートなどに取り組んでいる。
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記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■