本格的な春の到来です。春の花々は咲き揃い、日差しは日ごとに強さを増しています、一方で移り気な天候の変化、不規則な温度変化は、厄介な花粉症をはじめとする季節に関連したアレルギーにつながることも。耳と副鼻腔はつながっていることから、アレルギーによる鼻炎は私たちの聞こえにとっても悩ましい症状を招く可能性もあります。
耳のリンパは、春の季節変化の影響を受けやすい
耳の鼓膜の奥、内耳はリンパと呼ばれる液体で満たされています。この耳のリンパの流れは、春に発生する気圧の急激な変化に対して非常に敏感です。気圧が急激に下がると、耳全体の圧力が下がる前に、耳の外の圧力が下がることがあります。鼓膜の内側と外側で圧力の不均衡が生じ、結果的に内耳にむくみや気泡が生じることにつながります。季節性アレルギーは耳の中と外の気圧の調整を行う役割である耳管の狭窄を引き起こすことがあり、圧力の均等化をさらに難しくさせ、耳の不快な症状を悪化させることがあります。
内耳のリンパの均衡がとれていないことが原因ともされるメニエール病に悩む人々では、春の変わりやすい季節においては、めまいや耳鳴りを含む不快な症状が顕著になります。通常内耳のリンパは循環していますが、問題はリンパが必要以上に生み出されることによって生じます。
アレルギーは、春の望ましくない風物詩の一つです。私たちの多くはアレルギーとは、鼻水が出たり、または鼻が詰まったりなど鼻の周り・・副鼻腔への圧迫についてのみ考えがちですが、覚えておくべきは耳と副鼻腔はつながっているということです。
「アレルギー症状が目のかゆみや鼻水、くしゃみにつながることを多くの人が認識している一方で、アレルギーは当然耳にも影響することを知ると多くの方は非常に驚きを見せます」と米国シカゴで聴覚ケアの専門家としてクリニックを経営するオーディオロジストのロナ=フィッシャー氏(Mr. Ronna Fisher)は語ります。
日本国内の全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国疫学調査によるとアレルギー性鼻炎全体の有病率は39.4%であり、花粉症全体の有病率は29.8%、そしてスギ花粉症の有病率は26.5%とされています。この調査は2008年に行われたものですが以降人数は増加傾向にあるとされています。*全米では成人の10~30%、また子供たちの40%にあたる6,000万人の人々が季節性のアレルギーに悩んでいるとされます。春の暖かさや雨の多い天候によって、杉やヒノキをはじめ木々や草花に多くの花粉が発生します。
私たちの体は外部からの異物の侵入から身を守ろうとする免疫機能がありますが、アレルギー症状のある人々にとって、この免疫系は花粉などを異物とみなし、これに対し抗体を産生することによって反応しようとします。これらの抗体は、ヒスタミンと呼ばれる物質を放出し、粘液の産生を増加させます。残念なことに、アレルギーもまた耳管の腫れを引き起こします、このことは、鼓膜の内外の気圧の調整のために本来必要な開閉がなされないことを意味しています。その結果余分な液体や耳垢などで詰まるようになり、聞こえに悪影響を与える可能性のある耳圧迫感などの感覚へとつながります。
アレルギー症状で耳に違和感を感じる場合は、どうぞかかりつけの医師また耳鼻科医へご相談ください。市販の抗ヒスタミン薬なども、アレルギーに起因する問題の緩和に役立つとされます。
また日ごろの食生活もリンパ循環に寄与するとされています、適度な運動、塩分(ナトリウム)を減らした食事、または利尿作用に良い効果があるとされるブドウ、スイカ、セロリ、ピーマン、またアスパラガスなどの果物や野菜類を摂取いただくこともメリットにつながるとされます。(メニエール病など既往症のある方は、食事についてもどうぞ医師にご相談ください)
耳に圧力がかかり続けると慢性的な聴力低下につながるとされます。聞こえに変化があったり、違和感を感じる際はどうぞ重ねて耳鼻科医へご相談いただき、問題がより深刻な問題になる前に必要な対処や治療を受けてください。アレルギー、気圧の変化または内耳の炎症等によって耳の中に体液が溜まり、圧迫感などを引き起こすだけでなく、音が伝わることを阻害することもあり、その結果難聴を引き起こす可能性があります。さらに耳管が正常に機能していないことで過剰な体液が滞留するリスクとしては、細菌の繁殖による耳感染症の心配もあります。
補聴器をお使いの方に向けて、春に留意すべき点は?
春の気候は補聴器をお使いの方々にとってもメンテナンスや補聴器をより良い状態でお使いいただくために注意が必要です。花粉や黄砂などアレルゲンの飛来などによって補聴器のマイク(音の入り口)を詰まらせる可能性があります。補聴器のマイクカバーの交換を補聴器販売店へご相談ください。補聴器本体を柔らかい布などで拭いてください。アレルゲンに加え気温や湿度の上昇、雨、極端な温度変化などが伴います。湿気は、例えば耳かけ型補聴器(BTE)のチューブに水滴を生じさせるなど補聴器の天敵です。補聴器マイクやスピーカーなどに静電気による損傷を起こすこともあります。
さらに、気候が暖かくなることは、耳垢の量が増えることにもつながり補聴器の音の出口の部分を詰まらせる可能性があります。天気の変化があっても補聴器が正常に機能するようにするには、雨天の外出の際は、どうぞ傘を忘れずにまた帽子なども活用ください。定期的なメンテナンスは補聴器をより長くご使用いただくための鍵ですが、日常のお手入れとして、補聴器用の乾燥機なども必要に応じて使用してください。
このコラムの終わりに、急な気圧の変化、また花粉症の季節が終わった後もさらに聞こえの問題が続く場合は、迷わず耳鼻科医を受診ください。補聴器ついてのご相談は、こちらからも。(ヘルシーヒアリングジャパンへのお問合せフォームです。)春はたくさんの美しい音であふれる季節でもあります、健康な聞こえで春の鳥たちの声などをお楽しみください。
■参照サイト
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.comに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2016年2月29日の記事「Are your ears prepared for spring?」(Lisa Packer寄稿)
-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート