5月から8月は、1年の中で最も紫外線が強い時期です。紫外線の肌への影響などから、日焼け止めを塗ることもありますが、過度に日光を避けるとビタミンDが欠乏することが指摘されています。さらに、その影響が耳小骨にまで及べば、突発性感音難聴(SSNHL)のリスクも…紫外線を防ぎながら実は聞こえの健康にも関係するビタミンDを得るためにはどうすればいいでしょう?
ビタミンDが欠乏すると耳の聞こえにも影響が出ることも
ビタミンDは血液中のカルシウム濃度を一定に保ち、カルシウムの吸収を助ける働きをします。ビタミンDが不足することで、骨の主要成分であるカルシウムの吸収が弱くなり、骨折や骨粗しょう症を引き起こす原因のひとつになることがあります。
骨は手や足だけにあるわけではありません。鼓膜の奥の中耳部分にある「耳小骨」と呼ばれる小さな骨にも影響を与えます。耳小骨は人の身体の中で最小の骨とされ「ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨」の3つの骨が合わさった構造をしています。耳小骨は鼓膜に届いた音を耳の奥の内耳に振動として伝える役割を果たします。ビタミンDの不足によって骨量が減る「骨減少症」や耳小骨の動きが悪くなる「耳硬化症」という難聴との関係性が指摘されています。
台湾の高雄医学大学や長庚記念病院などを含む研究グループが日本の健康保険制度にあたる全民健康保険の加入者を対象に無作為に抽出された100万人を代表サンプルとして行った調査によると「骨粗しょう症」の症状を持つ患者は症状がない人と比較すると1.76倍、突発性感音難聴(SSNHL)を発症するリスクが高いことが明示されました。
日本人はビタミンDの大半を魚類から摂取している
ビタミンDは食事から摂取するのが基本です。魚類やきのこに多く含まれていて、とくに日本人は大半を魚類から摂っていることがわかっています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によると成人について1日のビタミンDの摂取量の目安として、最低5.5 μg、上限50 μg。「骨粗しょう症の予防と治療のガイドライン(2006年版)」によれば、予防の観点では1日10~20μgの摂取が推奨されています。魚類であればしらす干し(61μg)、焼き鮭(38.4μg)、うなぎのかば焼き(19μg)、きのこではマイタケ(25.9μg)の含有量がとくに高くなっています。
※いずれも100gあたり
日陰で30分過ごす程度の日光浴でビタミンDを合成
そんな大切な役割を果たすビタミンDには、実は、悪ものにされがちな紫外線が欠かせません。多量の紫外線がシミ、シワといった肌老化だけでなく、さまざまな病気を引き起こす原因になることは、広く知られてきました。そのため、日焼け止めや日傘、UVカットのサングラスなどで紫外線を防ぐことはとても大切です。ただ、その一方で紫外線は、ビタミンDを合成するという役割も持っています。
また、健康な骨づくりのためにあげられる代表的な栄養素にカルシウムがありますが、カルシウムを代謝するためには、食事からの摂取に加え、日光を浴びて体内でビタミンDを合成することが必要です。両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度、または日陰で30分間くらい過ごす程度で必要なビタミンDの目安量になるとされています。晴れた日に外で洗濯物を干したり、曇りの日には散歩をしたりと、ほんの少しの意識で、ビタミンDを効率よく取り入れていただくことができます。魚の摂取量が少ない欧米では、ビタミンDのサプリメント※も人気があるとのことです。食事が偏りがちになったり、日中に外出する時間がとれないときなどは、これらを利用いただくのも良いアイデアかもしれません。
※既往症をお持ちの方はかかりつけの医師や薬剤師にご相談ください
ここまでビタミンDについてのお話をお届けしました。新鮮な空気と適度な日差しによって、抗炎症性を持ち、体の骨、そして聞こえにとって大切な内耳の骨の強化に貢献できるビタミンDを健康的に生成できることが分かりました。太陽を求めて外へ出られると様々な音や声が聞こえてきます。これらの聞こえがいつもと少し違うと感じたら、どうぞ耳鼻科へご相談ください。また補聴器や聞こえについてもう少し詳しい情報をお求めの場合はこちらへご相談ください。
■参考
環境省「紫外線環境保健マニュアル」、ストレス科学研究 2014, 29, 28-33
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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