「他の部屋から話しかけられても、何を言っているのか分からないよ。」 息子の言葉に、私は急いで話そうとした言葉を飲み込むことがあります。特に聞こえに問題を抱えている人は、他の部屋にいるときに話しかけられても、きちんと伝わらない可能性についてケアする必要があります。私が常々家族に向けて使ってきた言葉を、今度は14歳の息子の口から繰り返し聞かされることで、私はなんとも複雑な気持ちになります。
私は、実はそれが私自身の口癖だと分かっています。長年、何度も何度も息子に言い続けた口癖の数々が、実際に息子の口から発せられているのです。以前、私はさして深い考えもなく家族に対して失敗を犯していました。それは自分の声がきちんと伝わると一方的に期待して、他の部屋にいる家族に話しかけることでした。このちょっとした思い込みによる失敗を恥ずかしく思い返す一方で、息子のこの対応を誇らしく感じています。なぜなら、これこそが家族のためにと慣習化してきたことだからです。
私は、約20年間にわたり重篤な難聴を経験しています。そして私自身は、米国における認定を受けた聴力ケアの専門家でもあります。
そしてまた、私は重度難聴を抱える母の娘でもあります。つまり食事のときも、仕事のときも、寝るときも、一瞬一瞬が難聴とコミュニケーションについて向き合い続けているといえるのです。もちろん、私は難聴のあるなしを別にして、他の部屋にいる人には話しかけない方が良いとわかっているのです。でもとにかく以前はそんなことをやっていました。
コミュニケーションスキルを学ぶ
人であるが故に、私たちはときにコミュニケーションをおざなりにしがちです。これは特に家族の中で起こります。多くの場合、私たちは職場など社会環境におけるコミュニケーションに比べてむしろ家族や近しい人との関係はよりカジュアルなものになりがちです。
ちゃんと伝わらないことはよく分かっているはずなのに、相手の背中に向かって話しかけたり、別の部屋にいる誰かに声をかけたり、または聞いてもらえるチャンスなのにうまく話せなかったりします。わざとやっているわけではありませんし、誰かの気持ちを軽んじているわけでもありません。私たちはごくごく普通の人であり、誰でもやりがちな失敗をしているだけです。円滑に行われるべきはずのコミュニケーションの失敗は、生活の中で不必要な対人関係のストレスを作り出してしまうことがあります。
補聴器をキチンと使っている補聴器ユーザーであっても、健聴者であっても、相手の言葉を正しく理解することは難しいものです。コミュニケーションの問題はどの家族にとっても深刻で広範な影響を与える可能性があります。私の家族では、私は子供たちに対して相手の話が分からない時には「何を言っているの?」と言わないように教えてきました。その代わりに、「あなたの話していることが理解できていません」と言うことで、話し手に対して、相手に理解できるように言い方を変える機会を与えることができます。
家族の難聴を適切にケアする必要性
私は境界線にまたがっているといえます。私は自分自身にも聴力損失がありますが、私は素晴らしい補聴器を装用しています。私はまた、重度難聴を抱えた母の娘でもあり、母もまた優れた補聴器を持っているのですが、母はしばしば補聴器を使わないでいるのです。
私は補聴器の装用を忘れないように、母の家に行く前に母親にメールを送ります。彼女はおおむね補聴器を装用してくれます、そうすると母の家に着いてすぐに会話を交わすことができます。こういう時、人生に喜びを感じるものです。
いつもそうだとは限りません、母は私たち家族が訪れる際に補聴器を装用していない場合もあります。そうすると私たちの会話を理解することができません。聞き取れなかったことを母はひっきりなしに質問を繰り返します。私はカバンに手書きのメモを忍ばせています、そこには「ママ、まず補聴器をつけて、それから話しましょう」と書いてあります。
家族の誰かが難聴の問題を抱えていること、そして適切な聴覚ケアを受けているか否かを含めて聞こえの問題は、家族全員に影響を与えることは言うまでもありません。補聴器を使っている場合でも、難聴を抱える多くの人は、依然として騒音があるなど聞こえが難しい環境下で会話を理解することに苦労しています。家族が聞こえの悩みを抱えていることが判明した場合、何をすべきなのでしょうか?まず、初めに大切な家族に対して耳鼻科医での聴力検査の受診を勧めましょう。そして第2に、円滑なコミュニケーションのためにいくつか基本的な家族のルールを決めましょう。
家族の円滑なコミュニケーションのための簡単な2つのルール
難聴が家族にどれほど影響を及ぼすかどうかを別にしても、家族にとってコミュニケーションは不可欠なものです。確かに、私たちは誰でも近しい人とのコミュニケーションをおざなりにしがちであり、また誰でもちょっとした間違いを犯します。話し相手が健聴者だからといって、家の中の別の階からや、戸棚に顔を突っ込んだ状態で、話しかけて相手があなたの言葉を理解していると期待するのは無理があります。相手は背中を向け、しかも遠くにいたかもしれませんし、騒音が邪魔していたかもしれません。だからこそ私は、適切なコミュニケーションの仕方を最優先するよう努力しています。
難聴を持つ当事者として、私はこれら2つのルールを慣習化しようと何年も努力してきました。
- あなたが話し手ならば、自分が話した内容を聞き手が理解しているかを確認するのはあなたの役割です。うまく伝わっていない場合は、正しく伝わるように言い直す必要があります。
- あなたが聞き手ならば、話を聞いているか、また話の内容を理解しているかどうかを話し手に知らせるのはあなたの役割です。
お互いに思いやりを持つこと
家族内で聞こえの問題を抱えると、何度も言い直さなければならないことで不満がたまったり、無視されている気がしたりといった感情を持ったり、家族との距離を感じるなど思ってもいなかったストレスに直面するかもしれません。私の家族におけるもっとも重要なコミュニケーションのルールは、誰かが間違いをしたときには相手を許すことにあります、完璧な人間などいないからです。
我慢が限界点に達しかけたり、くじけそうになったりした時には、いったん深呼吸をしましょう。誰かが悪いわけではないのです。人とのコミュニケーション、それこそが人を人たらしめるものであり、それが故にコミュニケーションでのトラブルが生じることもあります。相手を受け入れる姿勢をとることで、コミュニケーションはより滑らかなものになります。
本記事では2児の母であり自身が難聴の当事者でもある、米国ヘルシーヒアリングのカスタマーサポートマネジャーのスザンヌ=ジョーンズのエッセイをご紹介しました。ジョーンズは米国における認定補聴器スペシャリストの資格を有する専門家でもあります。ご自身や身近な方の聞こえがいつもと違うと感じたら、どうぞ現在の耳の状態や聴力について正しく理解するためにも耳鼻科医の受診をお勧めします。また難聴があるとして聞こえのサポートを検討されている場合、先進の補聴器などについてご相談いただくこともできます。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2016年5月24日の記事「Hearing loss affects the entire family」(Susanne Jones寄稿)-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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