難聴になると子音に多く含まれる高音から聞こえなくなり、高音が聞こえなくなると背景騒音のある環境での聞き取りが非常に困難になります。聴覚ケアの専門家が、初めて訪れた聞こえの悩みを抱えた人々から聞く訴えの典型が「聞こえるけれども、何を話しているか理解できない」です。難聴といっても、自覚症状としては「聞こえない」とも限らないのですね。
難聴は耳だけでなく、音を意味のある言葉に翻訳する脳の働きを含む問題です。その症状は人によって異なります。難聴は軽度から重度まであらゆる程度で起こります。しかし、ほとんどの場合、特に年齢を重ねた方々では、軽度から中等度の難聴、特に「高音」が聞こえにくいタイプの難聴が多いといえます。このケースでは、主に周囲に騒音がある環境でことばの理解が難しいという症状が挙げられます。
聞くことと、理解することはどう違うのか
耳鼻科において聴力検査を行うと、その結果はオージオグラムと呼ばれるグラフにマークを付ける形で記入されていきます。オージオグラムの横軸は左から右にいくにつれて音の高さが高くなること(周波数(ヘルツ:Hz))を示します。表の縦軸は上にいくほど小さな音、下にいくほどより大きな音であること(聴力レベル(デシベル:dB))を示しています。
「高音」の音に関する聴力低下に対して、耳鼻科では「高音急墜型」難聴であると伝えられるかもしれません。高音急墜型難聴と分かった場合、それは低音(1,000 Hz以下の音)を聞く際には、ときに健聴の方と変わらずに聞くことができることを意味しています。しかし、高音(1,000 Hzを超える音)を聞こえるようにするためには、その帯域の音の音量を大きく上げる必要があります。
常にそうだとは断定できませんが、「高音」における難聴が、聞こえるけれども話の内容が理解できないと感じることの原因であることが少なくありません。
「1(イチ)年前」といいましたか、それとも「7(シチ)年前」のことでしょうか?
会話(スピーチ)においては、母音A(ア)、E(エ)、I(イ)、O(オ)、U(ウ)の音の高さ(ピッチ)が低く、k(カ行)、 t(タ、テ、ト)、 S(サ、ス、セ、ソ)、F(フ)、Th(ツ)、(Sh(シュ)を含む子音は周波数が高い音です。
母音が耳に届くことは大切で、会話がなされていることを伝える手がかりとなりますが、ある単語を他の単語と区別して、会話に意味を与えるのは子音の役割です。
子音の微妙な違いが聞こえない限り、「加藤さん」と「佐藤さん」、「信号」と「リンゴ」、「1年」と「7年」のような言葉を区別することは困難です。自然に年齢を重ねることで起きる聴力の低下(加齢性難聴)、また過度の騒音や爆音にさらされることで引き起こされた「高音」難聴を持つ人々が、音があると分かっていても、その意味を理解することが難しいのと感じるのはこのような理由があるからです。
背景騒音があると聞き取りが難しい
聞こえるけれども会話の内容が不明瞭だと感じたら、難聴の初期の兆候かもしれません。
高音の周波数に難聴があると、比較的静かな環境でもことばの理解に問題が生じる可能性がありますが、背景騒音がある場合や複数の人々が同時に話している場合、会話についていくことが非常に困難になります。聞きづらさを感じる一方で、何年もの間、対応策を講じてこなかった難聴の方では、周囲との交流が非常に難しいために、それまで楽しんできた友人たちが集う社交場や公共の場所などを避け始めることもあります。
高音の周波数の難聴の気になるサインとはどのようなものでしょうか
高音の周波数の難聴があると、以下のような場面で難しさを感じるかもしれません。
- 静かな場所で、またうるさい場所で会話についていくこと(聞こえるけれども何を話しているのかが良く分からない)
- 電話での通話
- 音量を上げても、お気に入りのテレビ番組や映画についていくのが難しい
- 女性や小さな子供たちは概して高い声で話すため、話を理解することが難しい
- 音量を上げると音が歪んで聞こえるため、音楽を楽しむことが難しい
- 聞くことで疲れを感じる
家族や友人そして仕事仲間などは、あなたと話をするとき、あなたがきちんと彼らの話に耳を傾けていないようにと感じるため、フラストレーションが生じているかもしれません。あるいは、配偶者や近しい人は、あなたに対して「聞きたいことだけ聞いている」と責めることもあるかもしれません。その一方であなたはあなたで、他の人がブツブツ言っているのを責めるかもしれません。時々、あなたは、質問から外れた答えをしてしまったり、ジョークのおちを聞き逃したりということもあるかもしれません。その他の時には、誰かと話しているときに聞いている印象を与えるために、あなたは仕方なく微笑んだり、うなずいたりしているかもしれません。対応策を講じていない難聴は、人間関係、キャリア、そしてあなたの日常生活に、大きな負担をかける可能性があります。
高音からはじまる難聴をそのままにしておかないで
聴力検査によって難聴があり、補聴器の装用が有効だと分かった場合、補聴器はどのようなことができるでしょうか。補聴器では低音は増幅することなく、聞き逃していた高音部分を必要に応じて増幅することができます。補聴器の装用によって、会話の理解での改善に気づいていただけることでしょう。また、同時に長い間忘れられていた音が聞こえることに気付くことさえあるかもしれません。例えば、初めて補聴器を装用する方では、やわらかな鳥のさえずりに驚き、それをうれしく感じる方もいます。電子レンジのチンという音、車の方向指示器や電話の呼び出し音といった音が聞こえとして戻ってきます。
聞こえるけれども、話している内容が良く分からない、その問題を抱えているのはあなた一人ではありません。一度、補聴器の専門家に相談されてはいかがでしょうか。補聴器の専門家は、ほぼ毎日、聞こえでお悩みの方から、このような問題を聞いて対応しています。彼らは非常に熟練しているため、問題の根本的なところにたどり着き、そして一人一人の心配事に耳を傾けて、あなたが必要としている解決策を探し出していきます。職場、家庭、そして余暇の場で会話を楽しむことをあきらめてはいけません。聞こえに対し気になることがあれば、耳鼻科医の受診をお勧めします。補聴器についてのご質問またお近くの専門店について本サイトを通じて無料でご相談いただけます。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国HealthyHearing 2019年6月29日の記事「I can hear, just not clearly. Do I have hearing loss?」(US Healthy Hearing 編集長 Joy Victory寄稿)
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
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記事監修者
白石 君男先生
九州大学 名誉教授、福岡大学医学部 客員教授、一般財団法人曽田豊二記念財団 代表理事、医療法人永聖会 松田病院 言語聴覚士。■詳しいプロフィールを見る■