補聴器は大きく分けて耳かけ型と耳あな型の2種類に分けられます。ここ10年ほどは耳かけ型の人気が高まっていましたが、今年に入ってマスクが手放せなくなってからは、マスクやメガネに煩わされることがない耳あな型に注目が集まっているようです。しかしこの耳あな型補聴器、自分で上手くつけられないという方もなかにはいらっしゃるようです。今回は耳あな型の装着に不安をお持ちの方のために、図解入りで上手な装着と外し方のヒントをお届けします。
うまくつけられないので、実はあまり使えていない…数々の先進機能搭載、でもまずはしっかり耳に装着してから、です。
ここ十数年、補聴器は小型化が進み、耳の後ろにかけるタイプの耳かけ型が主流になった感があります。その色と形からベージュ色の小さなバナナと呼ばれていたのも今は昔、なのかもしれません。特に外耳道内レシーバー型(RITE)と呼ばれる耳かけ型補聴器は、小型の本体は耳の後ろ、音を出すスピーカーは外耳道に収まります。本体とスピーカーは極細のワイヤーでつながっていますが、ほとんど気づかれません。着け心地も軽く、いろんなカラーバリエーションから好みの色を選ぶこともできます。
日本補聴器工業会によると日本国内の補聴器出荷台数では、1998年に耳の穴にすっぽり収まる耳あな型が耳かけ型補聴器を初めて上回りました。(耳かけ型:165,150台 耳あな型176,289台)
その後しばらく耳あな型補聴器の時代が続きますが、2009年に再び耳かけ型の時代がきます。この年、耳かけ型は223,520台に対して、耳あな型は213,546台でした。そして昨年、2019年では耳かけ型が421,883台、耳あな型は173,496台、補聴器全体では初めて60万台を超えました。さまざまな機能を搭載し、デザインやカラーのバリエーションも豊富な耳かけ型が広く受け入れられたということなのでしょう。
最近、耳あな型補聴器の数字が伸びている、そんな話がきこえてきます。
「手元用のメガネだから、かけ外しはしょっちゅうで、その上マスクも着用…花粉の時期だけだったらそれもしかたないけど…」耳かけ型補聴器を4年使ってきて、この度、思い切って耳あな型補聴器に変えましたというTさん(男性)。補聴器販売店で耳型を取ってもらって、ご自分の耳に合わせて作ったオーダーメイドの耳あな型補聴器を購入しました。
出来上がった補聴器を販売店に受け取りに行き、スタッフに補聴器を耳に着けてもらって仕上がりを確認してもらい、音の調整もしてもらいました。「マスクもメガネも補聴器とケンカしないから最高!」とご満悦の様子。ところが、さあ、ご自分で装着となるとうまくいきません。
耳あな型補聴器を自分でうまく装着できない!
スタッフに着けてもらうと抵抗なくすっぽりとご自分の耳に収まるのは、「あつらえ」なのでそれは当たり前です。スタッフの説明を聞き、言われた通りに補聴器をつけようとするのですが、なんだかうまくいきません。何回か試してみましたが、どうもすんなりいかないのです。見かねたスタッフが、Tさんには、こっちの着け方のほうがいいかもしれません、と違う方法を教えてくれました。でも、途中で違う説明をされて、よくわからなくなりました。結局その場は、「家でよく練習するから」と補聴器は耳につけたままで帰りました。
Tさんはご自宅で、何度か耳あな型補聴器を試してみましたが、うまく装着することができず、せっかく耳あな型補聴器を購入したにもかかわらず、以前使用していた装着に慣れている耳かけ型を使うことのほうが多くなったそうです。
自分で耳あな型補聴器を上手に装着できない理由
このTさんのお話を、対応上手で朗らかな補聴器販売店のKさんにしたところ、「ウチではこういう手順で説明しています。」とアドバイスがもらえました。「耳あな型オーダーメイド補聴器はその人の耳の形に合わせて作るんだけど、耳の形通りということは補聴器の上下や左右が逆になっていたら入らないということですよ。初心者は「本来あるべき姿」が最初はわからないのが当たり前なので、きちんと耳に入っている状態を鏡で見てもらうとか、スマホで画像を撮って見てもらっています。」とさらに理由を説明されました。
上手に装着するための練習とコツについては「次にすべきことは、きちんと耳に入った補聴器を、ほんの少しだけ耳から外に出すようにして、またすぐ戻してもらうのを何度か繰り返してもらいます。そうすると、きちんと入っている感覚がわかるし、少し耳から出ているとこうなのか、もう一息の状態はこうなのかっていう感覚がわかりやすいんですよ。あるべき状態をユーザーが理解できてから、さっきのように耳にきちんと入れて下さいと言って着けていただくと大半の方はうまくいきますよ。中には、それでもうまくいかない人や、納品後の定期点検の際に、「入れ方、またわかんなくなったよ」という方もいます。そういう方には別の方法を試していただいてます。」とのことでしたので、次にご紹介させていただきます。
入れ方がわからくなくってしまった人へのアドバイス
(1)まずはご自身の補聴器の「上」と「下」をしっかり把握しましょう。
耳あな型の補聴器には、たいてい補聴器を「外すため」のテグスが取り付けられています。そのテグスの取り付け位置が「下」のことが多いのですが、それは購入した販売店で確認をして下さい。うまく入れられないかたの多くは、このテグスをつまんで補聴器を持ち上げて耳に入れようとしますが、これはやめたほうがいいでしょう。テグスをつまんで補聴器を持ち上げると「手首がかえって」しまい、補聴器の上下が逆になってしまうことが多いからです。
(2)補聴器の上と下がわかったら、親指、人差指、中指を中心にしっかりと持ちましょう。
少し手首のあたりが窮屈かもしれませんが、こう持つと手首が返らないので、補聴器の上下がひっくり返ることはありません。そうしておいて、次は肘をしっかり横に張ります。補聴器は耳の穴の真横にくるのでそのままゆっくりと押し込むようにします。慣れないうちはこの方法で練習すると補聴器は「今まではなんだったんだ」というくらいスムーズに装着できます。
耳あな型補聴器の外し方のアドバイス
耳あな型補聴器が装着できない!という方に比べると、外せないという方は少ないようです。外すときには補聴器に取出しテグスがついていればそれを引っ張れば良いだけですから。今回のお話の締めくくりとして、取出しテグスを長持ちさせるためのコツとテグスがついていなくても楽に外す方法をお伝えします。
テグスは引っ張りには強いですが、実はねじれには弱いようです。補聴器を外す際にテグスにだけ頼ってぐりぐりしているとテグスが劣化して切れることもあります。テグスの付け替えにはメーカーに送る必要がありますので、その場合は予備の補聴器をお持ちでないと、その間はご不便です。
上の図で、二通りの補聴器の外し方をご紹介します。実はこの方法を実施すると、テグスを長持ちさせることができます。
図①は耳たぶの下部のふくらみを後ろから押して補聴器を浮かせておいてから外す方法です。補聴器を少し浮かせてからテグスを真横に引っ張るイメージです。
図②は耳たぶの下の「谷間の部分」を下から押す方法です。この方法でも少し補聴器が浮くので、そうしておいてテグスを引っ張ります。取出しテグスにかかる負荷が少ないので長く使えます。
取出しテグスがついていなくても、上のどちらかの方法で補聴器は楽に外すことができます。補聴器を落とさないように必ず座った状態で行ってください。また、補聴器のご注文の時ですと追加料金などなしで、外しやすいように、ノッチという爪や指先が引っ掛かりやすくする加工をすることもできます。
今回は、耳あな型補聴器の上手な着け方と外し方をご紹介させていただきました。お困りの方は是非お試し下さい。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■