聞こえにくくなると補聴器をすすめられることがあります。しかし過去に合わなかった経験があると補聴器を希望しない方が多くいらっしゃいます。補聴器は、調整や機種の変更で適応させられる可能性があります。事例も交えて補聴器が合わなかったときの対処法を説明します。
聞こえにくくなった際に耳鼻科を受診すると治療を受けられますが、治療が難しい場合は補聴器をすすめられることもあります。しかし、以前に合わない補聴器を使った経験があって、補聴器を希望されない方も多くいらっしゃいます。
補聴器は、一度うまく適応させられなくても、調整や別の機種に変更することで適応させられる可能性があります。実際にあった事例も交えて、補聴器が合わなかったときの対処方法についてご紹介します。
補聴器を活用して聞こえやすくするための参考にしてください。
補聴器が合わなくても対処できる
言語聴覚士、かつ医療ライターである筆者が耳鼻科に勤めていた際に受けたご相談で多かったのは「聞こえにくくなった」です。
補聴器を初めてつけたとき、合わないと感じる場合があります。それは、以下の対処で改善できる可能性があります。
- 補聴器販売店への相談
- 買い替え
具体的な内容について、1つずつ見ていきましょう。
補聴器販売店に相談する
補聴器が合わなかったら、まずはご購入の 補聴器販売店へ相談しましょう。補聴器販売店では何度でも相談に乗ってくれます。
補聴器の調整
補聴器は管理医療機器ですので、その人に合った適切な調整が必要です。補聴器に慣れてくると補聴器や聞こえに対するニーズも変わってきますので、気軽に補聴器の聞こえについて感じている不満があれば相談しながら繰り返し調整してもらいましょう。
補聴器はメガネのようにつけたらすぐに適応するものではありません。その方に合った状態まで、時間をかけてじっくり調整するのが大切なのです。
聴力は「レベル1」のように単純には表せません。聞こえに関する細胞や神経は非常に緻密で、低い音から高い音それぞれに反応しやすい神経が異なります。 そのため、「それぞれの高さの音ごとに」「どのくらいの大きさの音が聞こえるのか」異なるのです。低い音がよく聞こえるけれど高い音が聞こえにくい方、全体が聞こえにくい方、低い音だけ聞こえにくい方などさまざまいらっしゃいます。
補聴器は、ご本人の聞こえ方に合わせて「低い音は大きくせず高い音だけ大きくしよう」など、細やかな調整ができるものです。満足できる状態に調整してもらうためにも、合わないと感じることを具体的に販売店に伝えましょう。
以下に例を示します。
- 相手の言葉が聞き取りにくい
- 雑音が気になる
- 大きな音がうるさすぎる
ただし、どんなにご本人に合った状態に補聴器を調整しても、初めてつけるときはわずらわしくうるさく感じるものです。ある程度まで合わせてもらったら「慣れる」という視点も大切にしましょう。
最初は静かな場所から、少しずつ補聴器をつける時間を増やすと、無理せずに慣れていけるでしょう。
参考記事:補聴器はこう使いこなす!自然な聞こえを手に入れる6つのステップ
それでもつらい場合には改めて販売店に相談しましょう。大きさやつける時間などの補聴器に慣れるためのアドバイスをもらえるはずです。場合によっては調整してもらうこともあるでしょう。
このように、補聴器は購入してからのアフターフォローが非常に大切です。できれば補聴器を調整する専門家「認定補聴器技能者」のいる販売店で購入することをおすすめします。
参考記事:使っても聞こえない?補聴器を買ったのにつけなくなってしまう人の割合は20%。正しい補聴器との付き合い方
電池切れや故障のチェック
補聴器を購入してしばらくたった方が耳鼻科に「聞こえにくい」と相談にいらっしゃいましたが、実際には 補聴器の故障や電池切れだったことがありました。
購入後数か月に一度は販売店で定期チェックをしてもらうと、このような事態が防げます。購入後の定期チェックについても購入前に確認しておきましょう。
補聴器を買い替える
聞こえを補助する機器の中には、調整を相談できない、十分に調整しきれない機器も存在します。たとえば以下のような機器です。
- 集音器
- ネット通販の補聴器
- ずっと昔に購入した補聴器
それぞれについての説明と、買い替えることで聞こえに対する満足度が上がった方の事例をご紹介します。
聞こえを補助する機器は3種類
聞こえを補助する機器は、主に以下の3種類があります。
- 集音器
- ネット通販の補聴器
- 正規販売店の補聴器
集音器は音響機器として分類されており、医療機器としての管理や規制を受けていないため、会話を聞くための機器として位置づけられているわけではありません。 補聴器に比べると十分な調整が難しい可能性があります。 また、購入後のアフターフォローはないので、調整などはご自身で対処する必要があります。
ネット通販の補聴器は、来店が不要、かつ安価な価格などに惹かれて購入する方が多い補聴器です。装着した後の満足度は認定補聴器技術者に調整してもらった場合に比べると劣ります。とくに難聴が高度な方や繊細な調整が必要な方には、調整しきれない可能性があるのです。
参考までに、補聴器を装着した後の満足度 に関する調査結果を表に示します。
聞こえを補う機器の種類 | 満足度(大変満足、満足、やや満足合計) |
---|---|
認定補聴器技術者が調整を行った補聴器 | 64% |
認定補聴器技能者以外が調整を行った補聴器 | 51% |
それ以外の機器(集音器、通販補聴器又は不明) | 26% |
他の機器と比べて、認定補聴器技能者が調整を行った補聴器の満足度は64%と高いことがわかります。
合わないときのリスクを考えると、認定補聴器技能者がいる販売店で補聴器を購入する方が満足できる可能性が高いといえるでしょう。
なお、補聴器は購入してから長期間経過していたり、聞こえの状態が大きく変化したりした場合には調整ではなく買い替えが必要です。補聴器を使用できる期間は、使用状況にもよりますが約3年~7年 が目安です。
補聴器を変更することで聞こえが改善する可能性
先ほどの表で示したように、現在お使いの機器が集音器やネット通販の補聴器であるならば、より聴力に合わせた補聴器に変更することで聞こえやすくなる可能性があります。
なお、多くの方のお悩みとしてよくあるのが「高価な補聴器を購入して合わなかったらどうしよう」です。
実は、補聴器を購入する前に無料でレンタルできる販売店があるのをご存じですか。
補聴器のレンタルは、ご本人に合わせて調整した補聴器を貸し出して、聞こえに満足したときだけ購入してもらうシステムです。レンタルした結果、合わなければやめることもできます。
高価な補聴器だからこそ、聞こえがどのように改善するのかを確認したうえで購入できるのは大きなメリットでしょう。
ヘルシーヒアリングの「聞こえの相談窓口検索」で補聴器の販売店を検索することができます。「購入前試聴貸出し対応」の表示があれば、補聴器を購入する前に試すことができます。
【事例紹介】耳に合う補聴器を選んでもらったら満足した
最後に、以前勤めていた耳鼻科外来を受診された患者様についてご紹介します。この方は、補聴器は合わないとあきらめていましたが、補聴器の買い替えを決断され、購入した補聴器を認定補聴器技能者に調整してもらうことで満足して使えるようになったそうです(具体的な状況などはプライバシー保護のため変更 を加えています)。
ぜひ参考にしてください。
「聞こえにくくなってきた」と耳鼻科外来にご相談
A様は「だんだん聞こえにくくなってきた」と耳鼻科外来に相談されました。
おっしゃっていた悩みは以下の通りです。
- 人との会話ができなくてつらい
- 通院の際のやりとりも難しい
- 家族にもなんとかするようにと言われている
聴力検査や診察の結果、治療ができない加齢性難聴(加齢に伴う難聴)、かつ高度難聴(耳元で大きな声を出してもらえないと聞き取れない)と診断されました。
検査の結果補聴器をおすすめするものの消極的
検査の結果、補聴器をおすすめしましたが「以前補聴器を使ってまったくだめだったから」と消極的でした。
そのときに聞いた情報を示します。テレビの通販番組で購入されたものだったようです。
- テレビの通販番組で機器(集音器もしくは通販補聴器)を購入
- うるさいのに言葉は聞き取りにくくて使うのをやめた
- やめて以降は生活に困るけれど使っていない
聞こえにくさに対して大変お困りのようでしたが、補聴器は希望されずにお帰りになりました。
補聴器の無料レンタルをご紹介
外来で詳しい検査をするために再度来院してもらった際に、補聴器について以下を説明しました。
- 補聴器の種類の違い
- 補聴器は聞こえに合わせて買うのが 大切 だという事実
- 合わなくても機種を変えれば合う方もいること
- 無料でレンタルできる補聴器もあること
- 高価な買い物のため、レンタルして合わなければやめればよいこと
上記をお伝えしたところ、補聴器の購入を希望されて認定補聴器技能者が在籍する補聴器販売店をご紹介することになりました。
しばらくして耳鼻科外来にいらっしゃり、レンタルした補聴器を非常に気に入って購入されたこと、その後は毎日つけて満足していることを報告してくださいました。
補聴器が合わなければまずは購入したお店に相談しましょう
補聴器を購入したばかりのときは、うるささやわずらわしさから合わないと感じる方が多いものです。補聴器を購入した後には、複数回にわたる調整と慣れていくステップが必要です。
一度補聴器が合わないと感じた方でも、適切な調整や機種の変更によって合う可能性があります。聞こえにくさに悩んだら、以下を満たす補聴器販売店に相談することをおすすめします。
- 認定補聴器技能者が在籍する
- 無料でレンタルできる
- アフターフォローが充実している
まずは無料でレンタルしてみて、聞こえやすくなるか確認するだけでもよいでしょう。
なお、聞こえにくさに困ったら、まずは耳鼻科を受診しましょう。治療できる病気の場合には補聴器が不要なことがあります。耳鼻科でチェックしてもらったうえで、必要であれば補聴器を検討されるとよいでしょう。
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記事投稿者
言語聴覚士ライター大井純子
言語聴覚士として病院・訪問でのリハビリに約20年間従事。
「コトバの力で誰かをサポートする」をモットーに、言語聴覚士として働くかたわら、医療記事作成や電子書籍出版サポートなどに取り組んでいる。 -
記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■