
定期的に耳鼻科で聴力検査を受けていただくことは、皆様の現在の聴力を把握するうえでとても良いことですが、もし片頭痛の症状に悩んだり、苦しんだりされている場合は、聴覚の健康状態を注意深く見守ることはとりわけ賢明なことであるとお伝えできるかもしれません。いくつかの研究において、片頭痛の症状に悩んでいる人は、片頭痛の症状のない人と比較して難聴の発症リスクが高いことが示されています。また、これらとは別の研究において、片頭痛を持つ患者では、突発性難聴として知られている急性感音難聴を発症するリスクが2倍高いことが示されています。
片頭痛とはどのような症状なのでしょうか。

米国の片頭痛に関する専門サイトMigraine.com(英文サイト)によれば、全米では3,700万人を超える人々が、片頭痛発作として知られる症状の発現を特徴とする神経疾患である片頭痛を発症していると報告されています。片頭痛患者の脳は、この症状のない人の脳とでは生化学的に異なる構造がみられることが報告されています。また、片頭痛は遺伝性であり、一般的に男性よりも女性のほうが多く発症します。片頭痛発作は原発性頭痛として知られていますが、その症状は通常の頭痛とは異なります。もっとも一般的な症状は次のとおりです。
- 脈打つような拍動性の痛み
- 光に対する感受性
- 音に対する感受性
- 吐き気
- 片側の痛み
- 視力の変化
- 片頭痛の前兆(明るい点、点滅、またはジグザグの線を見る)
- 嘔吐
片頭痛は4時間から数日間持続することがあります。症状や片頭痛を引き起こす誘因は個人によって異なります。
片頭痛および難聴
それでは、片頭痛はわたしたちの聴覚にどのように作用するのでしょうか。エジプトのアシュート大学病院神経心理学科(Egypt’s Assiut University Hospital’s Department of Neurology and Psychology)の研究者が行った研究*によれば、そこには少なからぬ作用があることが示されています。彼らの研究結果は、American Journal of Otolaryngology 2012年7- 8月号に掲載されています。

研究者らは電気生理学的検査を用いて、片頭痛患者の蝸牛および聴覚経路の機能を調べ、この疾患を有していない対象と比較しました。そして、片頭痛患者の2/3が1つ以上の異常を示すことを発見しました。この検査には、刺激を受けたときの蝸牛の有毛細胞の動きが正常かを測定する耳音響放射(OAE)検査および音に対する脳の応答を測定する聴性脳幹反応(ABR)検査が含まれていました。研究者らは、これらの異常は、片頭痛発作のために聴覚系への血液供給が損なわれた結果である可能性があると仮説を立てています。
蝸牛の感覚有毛細胞の正常な機能は血液循環に依存しており、健全な循環が得られることは重要です。血液循環の低下は、最終的にこれらの有毛細胞を損傷または死滅させ、感音難聴を引き起こすおそれがあります。
片頭痛および突発性難聴(急性感音難聴)
さらに台湾の台北退役軍人総合病院の研究者らによる研究**では、片頭痛患者が急性感音難聴として知られるまれな状態を示す可能性は、片頭痛の症状を持たない人々のほぼ2倍であることが確認されました。急性感音難聴と診断された患者は、一般的に、片側または両方の耳に原因不明の、急速な聴力の低下を来します。これは直ちに起こることもあれば、数日間継続することもあります。
突然の難聴の発症は医療上の緊急事態とみなされ、直ちに治療が必要です。 米国国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute for Deafness and Other Communication Disorders:NIDCD)によれば、聴覚ケアの専門家たちは、突発性難聴の発症は毎年5,000人に1人にとどまると推定しています。また一般には、40~50歳の成人がこの症状を発症するとされますが、症状の原因が特定できるのは、報告された症例のわずか10~15%です。
治療について

片頭痛の治療計画は、人によっても、また痛みの重症度および頻度によっても異なります。専門家は、片頭痛の専門医が適切な診断を行うことができるように、片頭痛を自覚した場合は片頭痛についてその症状のすべてを記録しておくことを推奨しています。
また突然の聴力低下があった場合は、まず耳鼻咽喉科を受診し、かかられている片頭痛の専門医などに情報を共有するようにしてください。片頭痛と診断された場合は、治療計画に耳鼻科医をはじめとする聴覚ケアの専門家による定期的な聴力検査が含まれているかについてもどうぞ確認してください。聴力検査を通じて、聞こえの健康状態の推移を見守ることができます。
■参照サイト
-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
-
記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■