睡眠時無呼吸が難聴に結び付く…難聴の危険因子は、大きな音にさらされることや、年齢を重ねることだけではありません。聞こえの健康は、多くの病状とライフスタイルの選択によって影響を受けることがあります。加齢、過度に騒音にさらされること、外傷性脳損傷などは、難聴につながるリスク要因として理解しやすいものですが、必ずしも明白とは言えないリスクもあります。本記事では、あなたを驚かせるかもしれない難聴につながる可能性のある5つの予想外の危険因子についてお伝えします。
睡眠時無呼吸
ここ数年間に発表されたいくつかの研究において、睡眠時無呼吸と難聴とが、強く関連していることが指摘されています。医療専門家は睡眠時無呼吸の人がなぜ難聴になりやすいかの理由を完全には明らかにしていませんが、睡眠時無呼吸の状態が内耳への血液供給を減らすためだと考えています。内耳は、音を適切に処理するために酸素の供給に依存している複雑なシステムです。長年にわたって大きないびきをかき続けることもまた、聞こえを損なう原因となることもあります。
過度の飲酒
適量を越えて日常的にお酒を飲む習慣のある方は、心臓病、高血圧、脳卒中などの慢性疾患の発症の危険性よりもさらに聞こえについて心配いただく必要があるかもしれません。大量の飲酒は中枢聴覚皮質にダメージを与え、脳が音を処理するのにかかる時間を増加させることが、ドイツのウルム大学で行われた研究で示されました。*1 若年成人の過度の飲酒は、低周波数の聞こえに問題を引き起こす可能性もあります。夜通し飲み続けるような過度の飲酒によって、体のバランスの問題が引き起こされる可能性があります。バランスをつかさどる内耳はリンパ液に満たされていますが、血液中や脳からアルコールが抜けた後でも、内耳のリンパ液にアルコールが吸収されることで起こります。
鉄欠乏症
米国ペンシルバニア大学の研究者たちが、305,000人以上の成人の医療記録を分析した結果、鉄欠乏性貧血(IDA)と難聴との関係を発見しました。この研究では鉄欠乏性貧血のある人々では、血液障害の問題がない成人よりも難聴になる可能性が2倍高いことが分かりました。研究者たちは、鉄欠乏が難聴を引き起こすと結論するには至りませんでしたが、音の処理をおこなう内耳の繊細な有毛細胞に健康的に血液を供給する上で、ミネラルが重要な役割を果たしていることを認めました。*2
おたふく風邪(ムンプス、流行性耳下腺炎)
この一般的な小児疾患は、顔の両側にある耳下腺に痛みを伴う腫れを引き起こすことで知られていますが、極端なケースでは、脳を包んでいる髄膜の腫れや、急性感音難聴のひとつであり聴力が改善しにくいとされる合併症のムンプス難聴を引き起こすこともあります。この難聴は聞こえにどのような影響を与えるでしょうか?医療専門家は、伝染性の高いムンプスウイルスが耳の内側にある蝸牛に損傷を与えるのではないかと考えています。おたふく風邪に感染した患者さんの1~4%のみが難聴を経験することが研究で示されていますが、正確な割合は不明です。おたふく風邪に対するお子さんの予防接種は、病気を防ぐ最良の方法といえます。国内では日本耳鼻咽喉科学会がおたふく風邪の予防接種を推奨しています。
慢性的なストレス
ほとんどの人が人生のある時点で短い期間での強いストレスを経験します。しかしながら慢性的に急性ストレスに苦しむ人では、さらなる健康上の問題を発症するリスクが高くなります。聞こえの場合では、それはおそらく循環の問題です。急性ストレスを感じている間、身体は酸素を取り入れ、その供給を筋肉へと振り向けることで私たちは必要であればより迅速に反応できます。ほとんどの場合、危険が過ぎると体は正常に戻ります。ただしストレスが慢性的になった場合には身体が普通の状態に戻るための明確な信号を受け取ることができなくなります。それは、内耳の聴覚メカニズムといった身体の他の部分が、適切な酸素と血液循環の不足により損傷を受ける可能性があることを意味しています。
定期的に耳鼻科を受診して聴力テストを受けましょう
今回ご紹介した難聴につながるかもしれない原因は、ほかの原因ほど一般的なものではないかもしれません。しかしながら聞こえの健康について詳しく調べることは良い考えです。それはすべて、聴覚を専門とする耳鼻科を探し、そこで聴力の評価をしてもらい、もし聞こえの低下があることが診断された場合には、より早くその難聴を治療することから始まります。もし難聴があり補聴器を検討される場合は、補聴器についてのご質問いただくことや、お近くの補聴器専門店をご紹介することも可能です。
参考サイト
*1: Cumulative lifelong alcohol consumption alters auditory brainstem potentials.
*2: Association of Iron Deficiency Anemia With Hearing Loss in US Adults
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2019年4月17日の記事「7 surprising risk factors for hearing loss」(US Healthy Hearing スタッフライターDebbie Clason寄稿)
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営
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記事監修者
白石 君男先生
九州大学 名誉教授、福岡大学医学部 客員教授、一般財団法人曽田豊二記念財団 代表理事、医療法人永聖会 松田病院 言語聴覚士。■詳しいプロフィールを見る■