日本の補聴器の出荷台数は増える傾向にあります。その内訳のメインはシニア層のユーザーですが、それだけとは言い切れないかもしれません。イヤホンをつけてスマホで音楽を聴く若者は電車でよく見られ、一般化した習慣と言えますが、近年、さまざまな研究から世界的に若者の難聴が増加傾向にあることが伝えられ、これに対して警鐘が鳴らされているのです。
若者の約半数にオーディオ機器による難聴のリスクがあり
世界保健機関(WHO)は2015年、世界で11億人の若者が、スマートフォンのイヤホン利用などにより深刻な難聴のリスクがあるとの報告を発表。このうち12~35才の約50%がオーディオ機器により、約40%がライブやクラブといった娯楽施設によって危険レベルの音量にさらされていると指摘しました。若者の聴覚障害における危険性はアメリカからも報告されています。アメリカ国内では子どもを含めた若者たちの約12.5%(約520万人)が、大音量が原因で難聴を引き起こす「騒音性難聴」に悩んでいるとされます。
日本でも、スマートフォンにイヤホンを挿して大きな音で音楽や動画を楽しむ若い世代の人々が大勢います。ロックフェスなど音楽ライブ市場も盛況で、動員数は増加傾向にあります。騒音性難聴の問題は遠い海の向こうの出来事ではなく、ごく身近な問題だといえるでしょう。
騒音の中でイヤホンを使用すると音量が大きくなりがちに
大音量の音は耳の奥にある、音を感知する細胞(有毛細胞)にダメージを与えます。細胞のダメージは修復されますが、この有毛細胞は「大きな音」を聞き続けて修復できないほど損傷を受けると二度と元には戻らず、損傷を受けた部分でキャッチしていた聞こえは失われることになります。
なお、何をもって「大きな音」と感じるかは個人差があるので特に注意が必要です。自分自身では問題ないと感じている音量が、じつは耳に悪影響を与えるほどの音量だったということもあり得ます。
騒音性難聴に結びつく場合があるといわれている音の大きさの目安は85db(デシベル)以上です。騒音の目安は、環境省によるとゲームセンターの店内が80dbを超える程度。地下鉄の車内は70~80dbになります。もしも地下鉄内で音楽を聞く場合は、車内の騒音以上のボリュームに設定することが多いため、聞こえに影響を及ぼす可能性も出てきます。
大音量が心配されるときは耳栓を持って音楽鑑賞を
「騒音性難聴」を防ぐためには、騒音にさらされる時間を少なくすること。WHOでは、スマートフォンなどのオーディオ機器の使用は1日1時間程度が望ましいと勧告しています。電車内など騒音のある場所だとどうしてもボリュームを大きくしてしまいがちなので、イヤホンを使用するシーンを選ぶことも大切です。また耳穴の中に入れて装用するカナル型のイヤホンは他のタイプの製品よりも大きな音にさらされる可能性が高くなるので、使い方を考慮しましょう。
ライブ会場やクラブなどの娯楽施設では音源となるスピーカーからはなるべく離れるようにします。もし指定席などで離れることが難しい場合は耳栓を使うのも手です。大音量で音楽を聴いたあと、一時的に音が聞こえにくくなったり耳鳴りが起こったりすることがありますが、もし翌日も違和感が続くようなら早めに耳鼻科を訪れましょう。連日にわたりフェスに参加するなどの場合、耳に違和感がある状態で連続して大音量を聴くのはくれぐれも避けてください。細胞のダメージが修復できなくなる可能性があります。
WHOは「失った聴力は二度と戻らない」と強い警告を発しています。将来の聞こえを守るためにも、耳への負担を意識しながら上手に音と付き合いましょう。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■