本稿の冒頭でご紹介する補聴器を使用していた子どもと難聴に対処していない子どもの比較調査によれば、補聴器を使用した方が発話、言語の発達が良好であり、さらに使用した期間が長いほど良好という結果がでました。子どもの難聴は可能な限り早く発見して対処するほどよいということです。この考え方に基づいて、米国ではほぼすべての乳児が新生児聴覚スクリーニング検査を受けています。本稿では難聴の子どものよりよい成長のヒントをご紹介します。
難聴に対して未対処のままでいることが学校の成績に影響を与え得るということはよく知られています。そして幸いにも、補聴器やその他の介入 (人工内耳など) が難聴に纏わる影響を最小限に抑えるのに役立つことも研究によって示されています。
アイオワ大学の研究では、聴覚に障害のある子どもが補聴器を使うと言語や発話をよりよく学習できることが分かっています。また小児の場合は、言語聴覚士によるサポートも欠かせません。
研究者らは、米国の6つの州の臨床サービス提供者から得られた新生児スクリーニングおよび紹介の記録により選ばれた、180人の就学前聴覚障害児について調べました。
その結果、補聴器を使用していた子どもはいずれも難聴に対処していない子どもと比較して、発話および言語の発達が良好であることがわかりました。この研究ではまた、補聴器をつけていた期間が長ければ長いほど、会話や言語の発達も良好であることが示されています。
「研究で分かった注意すべき点としては、難聴の程度に関わらず、例え軽度の難聴であっても、子どもにとってはリスクとなり得るということです。私たちの研究では、早期かつ積極的な介入によってそのリスクを最小限にできる可能性が示されています」 と、アイオワ大学コミュニケーション科学・障害学部の名誉教授であるブルース・トンブリン (Bruce Tomblin) 氏はニュースリリースで述べています。
音声と言語の発達に聴覚が重要な役割を果たす理由
「よく聞こえること」は「コミュニケーションをとること」以上のものに影響します。子どもの語彙や構文の発達、学業成績、社会的交流、職業選択にも影響を及ぼします。
米国言語聴覚士協会 (American Speech-Language-Hearing Association) によると、難聴が子どもに影響を及ぼす主な原因は4つあります。
- 発話と言語能力の遅れを引き起こす
- 言語障害が学業成績の低下をもたらす
- コミュニケーションの難しさが社会的孤立と自己概念の欠如につながる
- 職業選択に影響を与える可能性がある
難聴の子どもは「前」や「後」などの概念的な言葉や、複数の意味を持つ言葉を理解するのに苦労します。「さ行」、「は行」、「た行」、「か行」などの特定の音の聞き取りが難しく、それにより本人が構成する文章やボキャブラリーとなる言葉が影響を受けます。
正常な聴力の子どもと難聴の子どもの差は年齢とともに大きくなりますが、難聴を持つ子どもも適切な診断と対処を受ければ追いつくことができます。
難聴の子どもはいつ対処を受けるべきか?
できるだけ早いに越したことはありません。医療の専門家によると、永続的な難聴が確認された乳児は、十分な言語発達および音声発達のために可能な限り早い段階で聴覚を活用できるよう、生後6カ月までに補聴器などの対応処置を受ける必要があります。
米国ではほぼ全ての乳児が病院で新生児聴覚スクリーニング検査を受けます。日本でも新生児聴覚スクリーニング検査が普及してきていますが、赤ちゃんが新生児または乳児の聴力検査に合格したにもかかわらず、聴力に問題があると思われる場合は、さらなる評価が必要かどうかをかかりつけの医師に相談してください。
私の子どもは小学生。補聴器が必要かどうかはどうすればわかる?
子どもがとても小さい時には難聴が発見できないことがあり、学校では定期的に健康診断で聴力検査が行われます。学校の聴力検査で難聴が疑われた場合には、学校の推奨に従って耳鼻科を受診してください。
その一方で、検査では問題なかったにもかかわらず、難聴の疑いがある場合もかかりつけの病院にご相談ください。
難聴かもしれないと思われたものが、実際には聴覚処理障害のような神経系の疾患であったり、注意欠陥障害(ADD)/注意欠如・多動性障害(ADHD)であることもあります。
子ども用補聴器
生後4週間の子どもでも補聴器や補聴技術のシステムが使えます。乳幼児用の最も一般的な補聴器のタイプは、耳かけ型(BTE)の補聴器です。補聴器に取り付けて使うイヤモールドが幅広い難聴に対応できるとともに、掃除や調節が簡単で、子どもの成長に合わせて作り直すことができるためです。
補聴器以外の選択肢
補聴器では対処できない高度から重度の難聴がある場合には、人工内耳が候補となることがあります。人工内耳は蝸牛の損傷部分をバイパスし、聴神経を刺激するために外科的に体内に埋め込む医療機器です。あるいは骨導埋め込み型補聴システム(BAHS)と呼ばれる別の機器を使用した方がよい場合もあります。
子どもの聴覚ヘルスケアを総合的に踏まえて、どのような対処が最適かを判断するには耳鼻科の医師にご相談ください。
学校生活と難聴: 補聴援助装置や聴覚ケアの専門家が手助けに
補聴器や人工内耳が学校生活において重要であることは間違いありませんが、そういった機器以外にも考慮すべきことはたくさんあります。教室内の騒音は非常に大きいため、補聴器や人工内耳だけでは不十分な場合があります。そのようなときに補聴援助装置/システムが推奨される場合があります。子どもにとって最適なサポートを考えるのは時に難しさを伴いますが、家族にとって重要な役割を果たすのは言語聴覚士などの聴覚ケアの専門家です。
言語聴覚士とは?
言語聴覚士は、ことば・声・聞こえによるコミュニケーションに困難を抱えている乳幼児から高齢者に、専門的サービスを提供し、その人らしく豊かな生活を構築できるよう支援する専門職です。医療機関、保健・福祉機関、教育機関など様々な領域で活動し、難聴児の聴覚リハビリテーションにおいては、検査や訓練プログラムを通して言語発達や学習を支援します。
お子さんの難聴への対処が遅れることのないように
難聴が言語や学習に与える影響を限定的にするためには、どの時期に難聴が見つかったかにかかわらず、早急に対応することが重要です。研究によれば早期の介入が、言語能力の向上だけでなく、社会的スキルや学業成績の向上にもつなることが示されています。
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「HealthyHearing」2021年10月26日の記事「How hearing aids help kids learn better」(Joy Victory寄稿)
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■