今年、すでに昨年を超えるペースで感染者が出ている「麻疹(はしか)」という感染症についてご存じでしょうか。麻疹は感染力が強く、さまざまな後遺症もあるため、注意が必要です。今回は、いま流行が心配される麻疹の症状や合併症、感染経路、予防についてご紹介します。
麻疹の症状・合併症
「麻疹」は、近年まではおそろしい感染症として位置付けられていました。
江戸時代には、麻疹によって幼くして亡くなる子どもが多かったために、「はしかに罹って一人前」「7歳までは神の子」などと言われていたほどです。
麻疹の経過
麻疹は、さまざまな症状・合併症があります。感染から発症まで、段階を追って症状の変化を見ていきましょう。
まず、潜伏期間が10〜12日と長いのが特徴です。そして、急に38度ほどの高熱・鼻水・咳といった風邪のような症状が現れます。この日を発症日と考えます。3〜4日ほどこのような症状が続いたあと、少し風邪症状がやわらいでくるのが一般的な経過です。この時期、口の中に白い斑点(コプリック斑)が出現します。続いて、発熱がぶり返し、耳の後ろや顔から全身に発疹が広がり、数日かけておさまっていきます。
厄介なのは、発症の1〜2日前から感染力があるという点です。何の症状もないままに、気が付かないうちに感染を広げてしまう可能性があります。
麻疹の合併症は中耳炎にも注意
感染者のうち、約40%は入院が必要なレベルの重篤な症状になり、約30%の方は合併症を起こします。肺炎や気管支炎など肺の症状(15%)、中耳炎(10〜15%)が多いです。
乳幼児の中耳炎は症状に気が付きにくく、耳から膿が出てはじめて気がつくということも少なくありません。ひどくなると、顔面神経の麻痺が出ることもあります。耳を気にするような仕草がないか、注意してあげるとよいでしょう。
頻度は高くありませんが、麻疹による内耳炎の後遺症で、難聴をきたすこともあります。麻疹による難聴は左右同時に生じる「両側難聴」で、回復はたいへん難しいです。程度によっては、補聴器で聞こえを補うことができます。しかし、耳の聞こえは一生モノですので、麻疹にかからないに越したことはありません。
麻疹の感染経路と予防
麻疹は、1人の感染者から12〜14人に感染が広がる、たいへん感染力の強い感染症です。毎年大流行するインフルエンザでも、1人の感染者から1〜3人にしか広がりません。比べてみると、いかに感染力が強いかお分かりいただけるでしょう。
ここでは、麻疹の感染経路と、予防法についてご紹介します。
感染経路は「空気感染」
麻疹の感染力の強さは、感染経路が「空気感染」ということに関連しています。つまり、感染している人と同じ部屋にいるだけでも感染するということです。実際、2023年4月に海外から帰国した方の感染が確認された後に、同じ新幹線の車両に乗り合わせた方が感染したという事例がありました。
マスクだけでは防ぎきれないのが現状です。
麻疹予防にはワクチンを
空気感染の麻疹は、どのように感染予防をしたらよいでしょうか。
感染予防には、ワクチンが有効です。ワクチンを2回接種して完全な免疫を持っていれば、麻疹の感染者と接触したとしても発症することはありません。ワクチンを接種しておらず、今まで1度も麻疹にかかっていない「免疫を持っていない人」は、感染者と接触するとほぼ100%発症します。
また、麻疹は、免疫を持っている人を介して感染が広がることはない、というのが特徴です。ご自身が免疫を持っていれば、感染者と接触しても、家族へうつしてしまうことはなく、麻疹の発生地域でも安全に外出できます。
2019年から流行している「新型コロナウイルス」のように、感染者と接触した人を「濃厚接触者」とする考え方はしません。
予防のためのワクチンは、2000年から2回の定期接種となりました。現在は、日本全国的に90〜95%程度のお子さんがワクチンを接種できています。1972〜2000年の間に生まれた方は、ワクチンを1回しか摂取していない可能性があります。
1972年より前に生まれた方は、ワクチンの接種がおこなわれていません。すでに麻疹に感染したことで自然免疫を持っている方も多い年代ですが、感染歴やワクチン接種歴がわからない方は調べることも選択肢になるでしょう。とくに、以下のような方と頻繁に接触する場合は注意してください。
- ワクチンをまだ接種できない1歳未満のお子さん
- 免疫のない妊婦さん
まとめ
今回は、2023年に流行の兆しがある「麻疹(はしか)」の症状や合併症、感染予防について解説しました。
実際の流行状況については、こちらのページをご覧ください。毎週、都道府県ごとの感染状況が更新されます。
麻疹にかかったことのある方、ワクチンを2回打っている方は、免疫を持っているため、ご自身が感染する心配も、自分を介して誰かに感染を広げてしまう心配もありません。麻疹にかかると、耳の聞こえに影響することがあります。小さなお子さんの場合は耳を気にする様子がないかみてあげてください。
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記事投稿者
森崎アユム
「誰もが自分の体をいたわれる社会」を目指し、薬剤師として勤務する傍ら、わかりやすい情報発信を心がけています。
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■