聴覚はいわば自動操縦モードで機能しています。聴覚システム(外耳~内耳までの一連の耳の機能)は左右の耳に届いた音を、呼吸と同じぐらい自然に絶え間なく処理しています。聴覚システムを通じて音は脳へと届けられ、脳が音の意味を理解しています。このミステリアスな聞こえの仕組みについて、まだ皆さんがご存じでないかもしれない5つのことをご紹介します。
音声を分析・理解しているのは脳
耳に音が入るとき、何が起きているか考えたことはありますか? 脳はあなたの目に「見えたもの」を認識し理解しますが、それと同様に、耳を通じて集まった情報を受け取り、その音が何であるかを解釈します。脳のこの働きをごく簡単に示すと、以下のようになります。
耳は「外耳(がいじ)」、「中耳(ちゅうじ)」、「内耳(ないじ)」に分けられ、外耳は衛星放送アンテナのように周囲の環境にある音を集め、その音を中耳に注ぎ込みます。
内耳は音を電気信号に変換し、聴覚神経を通じて耳の奥へ届けます。その電気信号が脳に届くと、脳はこれを解釈してその音が何かを理解するのです。
耳の中の音に反応する毛「有毛細胞」とは?
誰しも髪の毛が伸びればカットし、スタイリングなどをされると思います。怖さを感じたときに腕や首の後ろの毛が逆立つ経験をされたことがある人も多いでしょう。
では、耳の中にも聞こえてくる音に反応するセンサーの役目をする、人の毛のような細胞「有毛細胞」が存在していることはご存知でしょうか?
聞こえの仕組みに深く関係する有毛細胞は、またの名を「聴毛(不動毛)」といいます。内耳にあり、外耳からの音の振動を受け取って電気信号に変え、聴神経に伝える役割を持っています。音の信号は聴神経を通じて脳に伝えられます。
有毛細胞はその数およそ1万6000個。耳の中のカタツムリに似た形をした蝸牛(かぎゅう)という部分の中に生えており、ちょうどカーペットの毛並みのようにも見えます。
カーペットの手前の方の有毛細胞は、高い音域の信号を伝える役割を担当しています。蝸牛の手前が高く、奥に行くほど低い音域の信号を伝える役割をしています。ちょうどピアノの鍵盤のように生えている場所によって担当している音の高さが異なります。
非常に繊細な有毛細胞は、さまざまなことが原因で損傷を受けることがあります。最も一般的な損傷は「騒音性難聴」です。 アメリカ国立衛生研究所によると、全米の男女20~69歳のうち約2600万人が難聴を有するとされていますが、その16%は12~20歳の若年層で、その多くが騒音性難聴によるものと報告されています。
聴覚の専門家たちによると、騒音を85db(デシベル)以下に抑えることができれば、有毛細胞にダメージが起こる可能性を最小限に抑えることができます。つまり、日曜大工など大きい音を伴う趣味がある場合には、音量を下げたり、耳栓などの聴力保護用具を使用することで難聴を予防できるのです。
左耳は音楽や感情、右耳は言語や論理を受け取りやすい
左右で足のサイズが違ったり、左右の目の視力が違うことはよくあります。同じように、耳も左右で異なるとしたら驚きますか?
難聴の場合、片側の耳がもう一方よりも聞こえにくいことは珍しくありませんが、もともと耳は生まれたときから、左耳と右耳では音のとらえ方が異なります。
右耳は言語や論理により反応し、左耳は音楽、感情や直観などに関連することをより受け取りやすいとされています。言語は主に「左脳」で処理される一方、音楽(またその他の想像力を必要とする機能)は「右脳」が担うと言われています。
このことは、左耳の難聴が重い場合には、友人や家族の感情的な問題の理解に困難を感じたり、右耳の難聴が重い場合は、物事を整理する能力の一部が失われたりするといったことの説明につながるかもしれません。
左右の耳は同時に働くことで、脳をより効果的にサポートする
次は脳との関係を見ていきましょう。
両方の耳で聞くことを「両耳聴(りょうじちょう)」と言いますが、耳は左右同時に働くことで脳の聞く機能を助け、音がどこから来るのかを聞き分けています。両耳で聞くことで可聴範囲を広げ、よりバランスのとれた自然な聞こえを可能にするのです。事実、片耳で聞いたときより両耳で聞く方が、最大4倍まで聞き取りが向上するとされています。
これは聴覚ケアの専門家や補聴器の専門スタッフが、両耳に難聴が見られる方に、両耳の補聴器装用をおすすめする理由でもあります。
難聴がある方はより疲れを感じやすい
以前より疲れを感じやすくなったと感じたら、それは年齢のせいではなく、聞こえの低下が原因かもしれません。
難聴がある場合、聞こえてくる内容を理解するにはより多くの集中力が求められます。周囲の人々が何を言っているのか、唇の動きや顔の表情、ボディランゲージなどから読み取る必要もあります。
米国の医療機関であるベターヒヤリング研究所の調査によると、職場で難聴への適切な対応が行われていないことが社会的に560億USドルの損失を生み出し、その要因は「難聴が引き起こす疲れ」にあるとしています。
デンマーク国立社会研究所の調査では、難聴の悩みを持つ人々の5人に1人が仕事を辞めていることがわかっています。
幸いなことに、補聴器を使うことで難聴による疲れを軽減することができます。最新の補聴器の多くは、周囲の不要な騒音を取り除いたり抑えたりして、聞きたい音だけを増幅する機能を備えています。
聞こえについて不安をお持ちの場合は、まず耳鼻科などの専門医療機関で聴力検査を受けましょう。補聴器専門店などで聞こえの相談をしていただくことも可能です。聞こえに対して現在特に気になることがない方も、健康診断など定期的に聴力検査をうけていただくことは、聞こえの健康について意識する第一歩となります。
出典:米国「Healthy Hearing」2015年10月20日の記事「Five things you may not know about your hearing」(Debbie Clason寄稿)
※本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトは healthyhearing.comに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
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